蝶よ花よ、あこがれに恋して
簡単に緩む私を見て、桜庭さんは楽しそうにする。彼が喜んでくれると私も嬉しいし、浮かない顔をしているとどうしたんだと考える。
「さ、桜庭さんは知らない人じゃないから特別です……」
しどろもどろになって答えた。頬杖をついた桜庭さんは私を上目で見上げ、片方の小指を差し出した。
「じゃあ、俺との約束。連絡先は教えないで」
「分かりました!連絡先は死守します!!」
小指と小指をきゅっと結んで、私のルールブックに《連絡先は教えないこと》と書き込む。
「ところで桜庭さん、今日はオフですか?」
謎に業界用語っぽ言葉を使ってみる。
「今日は午後からCMの撮影」
さすがアイドルだ!!!
本物の業界人に一般人は心の中でひれ伏す。
「シーズン中にCM撮影入れるマネージャー、鬼すぎでしょ」
桜庭さん推しとしては、マネージャーさんはとても良い仕事をしていらっしゃると思うけれど、桜庭さんはどうやら不服そうなので「応援してます!!」とだけ告げれば「はは、うん、がんばる」と、桜庭さんは、は行を並べて笑う。
その後桜庭さんはランチを食べ終わるとすぐに帰ってしまった。
従業員としてはお客さんに早く帰ってほしいと思うものだけど、桜庭さんは私の栄養素なので、もう少しいて欲しかったなあ……。