蝶よ花よ、あこがれに恋して
桜庭さんと入れ違いで男性の来店があった。
「いらっしゃいませお好きな席へどうぞー」
しかしその人は、お客さまの中で唯一塩対応を(勝手に)許している人物なので、お砂糖抜きの事務的な対応を取った。オーナーが不在というのも大きい。
「なんか今、すごいイケメンとすれ違ったんだけど」
カウンター席に移動しながら、背の高い男は心鈴ホイホイワードを告げるので「多分それ、私の推し!」と言えば、その人は高い位置から呆れたようにため息を吐いた。
「まじかよ。おまえ遂に客に手を出すようになったの?」
「違います。お客様、お冷はセルフサービスになっておりますのでご自由にどうぞ」
「推しって、前話してた向かいに住んでるアイドル?」
「そう。素敵だったでしょ〜!!」
「お前、ああいう王子顔?好きだよな〜。想像通り。つまんな」
「お客様、お帰りですか?」
「チキン南蛮よろしく」
ラフな格好の男は職場に近いという理由で度々当店を利用する、友人の伊吹慧だ。私はイブと呼んでいる。
イブとは中学と高校が一緒で、アクティブなイブと内気な私。赤面症で揶揄われる私を、貶しながらも励ましてくれたのはイブだった。
感謝もしていたので、お礼としてその頃から既にバスケ一筋な性分であるイブの練習に付き合わされるのは日常茶飯事だし、ルールだったり、NBAの選手だったり、バスケのことは大抵刷り込まれて来て、お陰でスポーツはもうお腹いっぱい。