蝶よ花よ、あこがれに恋して
「あれはアイドル確定なお顔だよね。まだ売れてないアイドルかなあ……私が育てたい……」
「ここにバカがいる」
「バスケバカはちょっと黙って欲しいです」
「バスケ舐めんな。すず、貢ぐ前に一旦俺に相談しろよ。貢いだ後だと手遅れだからな、お前は」
手料理は振舞ったけれど、あれは貢ぐとは別のことだし、桜庭さんは私以外のファンからたくさん貢がれているだろうし、そもそも桜庭さんが私に貢いでくれたりするからなあ……??
「うん。わかった」
どこまでが《貢ぎ》のボーダーラインか分からず、とりあえず返事に変えた。
次の日の朝、出勤前にベランダにタオル類を干していると対岸のベランダに桜庭さんを発見した。自分の視力が2.0であることをこれほど誇らしく思ったことは無い。桜庭さんと目が合う。勘違い?ううん、絶対に目が合った。お互い、お互いの存在を認知したのを感じ取り手を振った。桜庭さんからの見返りは求めない。自己満だ。
すると桜庭さんは親指と人差し指で控えめに作られたハートを胸の前で揺すった。その瞬間、ズキュン!と撃ち抜かれた音がして膝から崩れ落ちた。
なんてことだ。完璧なファンサだ。誰がなんと言おうと、今のはファンサである。これほど自分の視力を喜び、呪ったことは無いし、今ので私の視力がさらに良くなった気がする。