蝶よ花よ、あこがれに恋して

「ちなみに桜庭さんのポジションってどこなんですか?」

「あー、専門用語話してもわかんないよね」

「わからないですね!!」

「状況によってインサイドの時もあるけれど、大体センターかな。真ん中付近をうろうろしてる」

センター!!!すごい!!!
そりゃあいくらイケメン揃いのアイドルグループとは言え、桜庭さんが一番人気ということだろう。

妄想が捗る。おかげで眠気なんて空の彼方へ消えてしまった。今日も私の世界は平和だ。

「生で見たいならいつでも席とるから言ってよ」

そんな平和を脅かす、キュンとトキメキの伝道師(?)が桜庭さんだ。彼は容赦なく私の真面目という堅苦しさを奪おうとする。

「え、遠慮します」

私の耐久性はほとんど無くて、あと一歩踏み込まれたらパリンと崩れてしまう恐れがある。

「心鈴ちゃんが見てくれると俺のためでもあるから、駄目?」

そんな風に、困ったように笑わないで欲しい。

「もちろんです!!!」

ほらね、私は桜庭さん限定で、とってもとってもチョロくなってしまうのだから。

「わたし、ファンの子に恨まれないでしょうか」

「俺の意思で心鈴ちゃんに間近で見て欲しいんだから、恨まれるわけないでしょ」

見上げた桜庭さんの肩越しに、静かな住宅街と朝の気持ちの良い空があった。彼は、いつもほんのりと、余裕を口元に浮かべている。

「来週から1ヶ月くらい家空けるんだけど、おかげで頑張れそう」

「1ヶ月ですか?」

「地方遠征」

地方遠征……!

私は聞きなれない、使う予定もない。けれども桜庭さんにとっては当たり前の日常をおすそ分けされる。
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