蝶よ花よ、あこがれに恋して
「遠征で家空けると掃除とか郵便受けが大変なんだよね」
「ああ、分かります。ほこりとか、あの子たちどこで生成されてるんでしょうね」
数日連休で帰省しただけで床にほこりが溜まっていて、自宅に帰ってそうそうガッカリすることもある。それが億劫で長く家を空けられない。桜庭さんはその比じゃないのだろう。
「……そうだ。いいこと考えた」
「いいこと?」
桜庭さんの心を覗こうと首を傾げた。
「心鈴ちゃん、たまに俺ん家の掃除してくれない?」
「お掃除、ですか?」
「ハウスキーパーってやつ」
「え!私が!?や、雇ったりしないんですか?」
「今までは彼女に任せてたけど今俺フリーだし、頼める人、心鈴ちゃんしか居ないし。つか心鈴ちゃんなら、雇うよりも安心出来るんだよな」
さきほど頑なに拒絶した成果がここに現れたのか。
「任せて貰えるなら、完璧に仕上げてみせます!」
「じゃあ、あとで合鍵渡す」
「(合鍵……)」
て、恋人みたいですよね?
脈略もなく不意に浮かんだ大それた欲望を掻き消すように、わたしは何度か目をしばたたかせて、彼の堅牢な瞳をじっくりと見つめた。駄目だ、ときめく。
その瞬間、私は自分で自分の頬をパチン!と平手打ちした。邪な欲望を消して理性を保つためた。
「え、なに?どうしたの?」
「なんでもないです、なんでも!今日は暑いですね!」
「そうかな」
苦し紛れに言い訳した。桜庭さんは、私の脳内を見透かしたように微笑む。
「ちゃんと良い子したら、ご褒美あげる」
既にご褒美なんですけど……!!!
私の推しは、常に最高を更新し続けてくれる人らしい。