蝶よ花よ、あこがれに恋して


何か言わなければ。でも、なんて言えばいい?

「……あ、の、あの……っ」

今日も素敵ですね、は当たり前だし、今まで間違えてごめんなさい?それとも、何も知らないふりして、試合のことを聞いてみる?

「どうかした?」

上手な切り出し方が分からない私を、何も知らない桜庭さんがのぞき込む。どきん!と鼓動が脈打てば、真っ白になる脳内。どうすれば、どうすればいい……!?

ぐるぐると疑問ばかりが思考回路を占領し、同時に、頬へ熱が集中するのを自覚した。それも、今までと比較できないほどに。

どうする?どうすればいい?

というよりも。

……こんな状態で、冷静になんか話せない。

顔を背けてしまう。ほぼ、無意識のうちに。

「し……失礼しますっ!」
「は?」

私が選択したのは”にげる“だ。

桜庭さんはきょとんと目を瞬きさせていたけれど、そんな桜庭さんを無視する、あるまじき行為を取った私は、あわててマンションへと逃げ込んだ。


何こいつって顔してた。
プロのサッカー選手である俺が話しかけてるのに、何無視しちゃってんの?って、そんな顔。

「……どうしよう〜……」

嘘。そんなこと、桜庭さんは言わない。言うはずがない。

玄関のドアに背中を預け、ずるずるとしゃがみ込むと両手で顔を覆い隠した。
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