蝶よ花よ、あこがれに恋して
そんな風に、自分勝手な後悔を幾度となく繰り返した私だけど、ついに、決定的な出来事が起きてしまう。
今日もまた、くたくたの身体を動かしてマンションにたどり着く。向かいのマンションを見上げれば、桜庭さんのお部屋から明かりが漏れていた。
「(今日もおつかれさまです、桜庭さん。存在してくださってありがとうございます……!)」
心の中で語りかけ、それからスマホを取り出す。
あの日から、連絡はぱたりと途切れた。桜庭さんはどう思っているだろうか。
ううん、私を気にかけてくれているなんて、そんなふうに思うこと自体おこがましい。
元々、要件がある時だけ連絡していただけで、本来、私が気軽に連絡を取れる人じゃない。
バッグの中に手を伸ばした。毎日持ち歩いているお気に入りのポーチの中に入れた、宝物という名前の貴重品。それは桜庭さんの家の合鍵。
「(早く返さなきゃ……)」
言い訳をするならば、完全に気を抜いていた。
もっと上手な言い訳をするならば、彼は家にいると思っていた。
ため息をひとつ落とし、それから、自分のマンションへの曲がり角を曲がったその時だった。
何気なく歩いていた私の手は誰かに掴まれたことによって、動きが止まる。突然の異変に戸惑い、見上げた。
「捕まえた」
何のためらいもなくわたしを、言葉通り捕獲したのは、桜庭さんだった。