蝶よ花よ、あこがれに恋して
桜庭さんは、掴んだ私の手を引き寄せ腰を抱くと、ぎゅうと抱きしめる。耳を胸に押し当てられた。桜庭さんの心音が聞こえる。
ちょっと、何が起こっているのか、全く思考回路が追いつかないのだけど、何事ですか???
石炭を与えられた蒸気機関車のように、私の心臓は動きを早めた。しかしそれは私だけで、桜庭さんの心音は至って静か。
「あの、桜庭さん、近いです」
「まあ、近いよね」
桜庭さんの髪の毛の、その毛先が微かに頬に触れた。くすぐったい。身に余る幸せ。それを奇跡と呼ぶのなら、私は、桜庭さんときっかけを持ったあの日から、その奇跡を何度噛み締めてきただろう。
ていうか、誰かに見られでもしたら、スポンサーの人にまた怒られるのでは……!?
推しの危険は身に降りかかるよりも前に取り除くべきだ。
「とり……あの、とりあえず、離れませんか」
「心鈴ちゃんが離れるから無理」
「はな……!?」
この人は、桜庭さんですよね?
ああ、そうか、そうですか、私をもっと喜ばせようとしているんですね?
いや、まじめに考えて、これ以上私をよろこばせてどうする気だろう。