蝶よ花よ、あこがれに恋して

自分の心臓がうるさい。桜庭さんの胸の上でシャツを掴むように指を丸めた。

「あの、桜庭さん、苦しいです」
「なんで避けるの」

残念ながら答えになっていない。
頬に熱が集中するのが分かった。顔を見なくても、いま、人生で一番紅潮している自信がある。

苦しいのは、身体なのか心臓なのか。

「さけ……さけてません」
「うそつき」

強気な語気に言葉が消える。

「心鈴ちゃんに避けられるの、そろそろキツイんだけど」

ずるい。突然弱々しくなるの、すごくずるい。

「俺、何かした?」
「あの、ちが……」
「部屋に何かあった?汚すぎ?」
「や、そんなこと……そんなこと、無いです」

逆に清潔感がありすぎて、私、必要ないのではと思ったくらいで……、

「じゃあ、なに」

言いかけた言葉は桜庭さんの言葉によって消えた。
拘束が、すこし緩められた。緩められたことによって解放感が与えられる。見上げた。アーモンド型の、綺麗な二重の瞳が私を見つめている。あまりに贅沢で、軽くめまいがした。

「わ、私……」

反省を口の中に閉じ込める。

「知らなかったんです!桜庭さんが、サッカー選手だって!!」

胸の中に閉じ込めていた後悔を勢いよく吐き出すと、桜庭さんの目が訝しげに細まった。
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