蝶よ花よ、あこがれに恋して
「は??」
桜庭さんは惚けたように疑問を吐き出した。
穴があったら入りたい。けれども逃げ場なんてないし、おそらく救済措置もない。有罪判決が確定している被告人のごとく、桜庭さんの腕の中で縮こまる。
「あの、私、桜庭さんのことをアイドルだと思っていました。なので必然的にアイドル番組ばかり追っていまして、おかげでアイドル名鑑が言えるほど詳しくなりましてですね」
「……アイドル」
「……アイドル」
謎に連呼して、見合わせる。空気が重い。お前、何変な勘違いしてるんだって言われなくてもその目が語っている。
「だ、だって、桜庭さんの見た目がもう、アイドルじゃないですか」
意味のわからない弁論を告げる。桜庭さんは緊張を緩めない。
「ごめん、いまからアイドルに転職は厳しい」
「そういうわけでは……!そういうわけではなく」
「サッカー選手じゃ駄目だった?」
桜庭さんが首を傾げて、私を覗き込む。
ああ、もう、その角度、絶対に分かってやってらっしゃる。
「そんなこと……、そんなこと、あるわけないです!」
力いっぱい言い切ると、桜庭さんは安心したように脱力し、額を私の肩口に押し付けた。これもまた、私の心臓への負担は計り知れないもので。
「よかったー……嫌われたかと思った」
弱々しく吐き出された声に、抱きしめたいこの欲をなんとか良心がとめてくれた。