蝶よ花よ、あこがれに恋して
キャップを被っていたから分かんなかったのかなあ……。
「試合が終わったら、少し待ってて。」
試合時間が近くなり、選手たちは一度控え室に戻るらしいので、それと同時に私と冬稀さんも本来の席へ移動した。そこは中央の一角で、自力で取るとかなり高そうなシートだと思う。取ったことがないので分からないけれど。
Tokiさんは、芸能関係の知り合いでもいるのか、その場にいる数名と喋っており、詮索したい気持ちと戦いながらキックオフの時間を待っていた。
周囲を見渡す。スタジアムを埋め尽くす人、人、人。いくらサッカーとは無縁の人生を送ったとしても、テレビでいつか見た事がある光景と、耳にしたことがある応援歌は、生で聴くと圧巻だ。
しばらくすると選手入場となった。一度は耳にしたことのある音楽とともに現れた桜庭さんは子どもと手を繋いで歩いており、意味もなく心臓がキュンとした。
儀式的なオープニングが終わると、間もなくキックオフとなる。
「……桜庭さんだ……」
「サクだね」
「なんか感動します……」
「なんで?」
私は、桜庭さんに出会わなければ、桜庭志邑という人しかもたらすことの出来ない、人生で絶対に経験しなかったであろう数々を経験させてもらっている、そんな自覚がある。