蝶よ花よ、あこがれに恋して
気を抜いていれば、桜庭さんは私の手首に軽くキスを落とすから「ひ、えっ……!?」と、彼のいたずらな不意打ちに変な声が出てしまった。緩んだ目元と甘い笑顔。いつもの桜庭さんだ。嬉しい。おかえりで喜んでくれるなら、何回でも何万回でも、桜庭さんが「うざい」って思うくらい言うのに。
桜庭さんは「帰ろう」と言って私と繋いだ手を手首から手に持ち替え、空いた片方の手で髪の毛をタオルドライしている。
えっと、そのタオル、洗いたくないのだけど、気持ち悪がられそうなのでちゃんと洗おう。
ていうか待って、手。えっと、手。また逃げると思われている?逃げないですよ?それより、えっと、そうだ。
「あの、桜庭さんとてもかっこよかったです。私の中でMVPは常に桜庭さんです!おめでとうございます!」
持ち余していた感情を桜庭さんにぶつける。
「うん、ありがとう。勝ててよかった」
「はい。ネットニュースで見かけたのですが、桜庭さんの右足はこの国の宝ですね!!」
「ウケるね。そういえば、冬稀は?」
「途中で仕事だからって帰られました。桜庭さんに宜しくと仰ってましたよ」
「はは、あいつはそんなこと言わねえよ」
「(バレたか……)」
確かにTokiさんは「じゃあ、俺、帰るわ」と言って私に被せていたキャップをひょいと奪い「またね、ご近所さん」と、試合中に帰ってしまったのだ。相手からのカウンターを凌ぎほっと胸をなでおろした直後だったので、挨拶も碌に出来なかった。