蝶よ花よ、あこがれに恋して
「(ちゃんと、さようなら、言えたかな……?)」
今思うと、桜庭さんの友人に失礼が無かったのか不安だ。
桜庭さんに促されてスタジアムの関係者入口らしき場所へ向かった。けれどもファンの人が出待ちしているが見えて、遠回りして別の出入口からスタジアムを出た。
「冬稀に変なこと言われなかった?」
安全を確認して二人でタクシーに乗り込むと、桜庭さんはTokiさんを訊ねた。変なこと、と、言われて思い当たるのは私が桜庭さんをアイドルだと勘違いした話だ。それ以外は至って平和だった。首を横に振る。
「いえ、何も。楽しかったです。最初はすごく緊張したんですけど、というか、今でもTokiさんとお話したって現実がちょっと理解できないんですけど、Tokiさんは365日24時間アイドルって感じでした」
やっぱり本物は違うなあ……と、Tokiさんとの会話を思い返していれば「心鈴ちゃん、アイドルが好きそうだから、会わせて良かった」と、理由を教えてくれた。
「(そんな理由で……)」
彼の心遣いに胸がくすぐったくなる。だって、ただ単純に、桜庭さんをアイドルだと勘違いしていたからアイドル番組を見ていただけなのに……。
胸がきゅんと熱くなる。頬が赤く紅潮したことを感じ取る。もう、どうしようもなく。
「でも、感覚的に、アイドルと言うよりも桜庭さんのお友達と話しているって感じでした。素敵なご友人ですね」
そうして視線を逸らす。しかし、心鈴ちゃん、と呼ばれてすぐに視線は戻される。これは必然。妖艶に微笑む桜庭さんと出会う。
「好きになったらだめだよ」
「……!」
そんなに余裕のある牽制、ありますか。