蝶よ花よ、あこがれに恋して


「桜庭さん」

後部座席の隣に座る桜庭さんに訊ねると「ん?」とすぐに返事が届く。

「あの、疲れましたか?」

「まあ、こんなもん。いつも通り」

「すごいです!私だったら、開始五分で全身筋肉痛になる自信があります!」

いつも通りといいつつ、桜庭さんは眠たいのか顔をゆるやかに綻ばせると、くくっと喉を鳴らした。

「桜庭さん、眠いですか?」

「うーん……勝てたし、ハイになってるのかあんま眠くないな」

眠そうだなって感じたのは私の思い過ごしで、桜庭さんは眠くないと言う。まだ一緒にいたい。これは私の単なる欲望。それからわがまま。膝の上に置いていた手をぎゅっと握りしめた。

「……あの、桜庭さん。お願い、聞いてもらってもいいですか」

「お願い?」

「はい。今日、桜庭さんは、たくさん頑張っていたじゃないですか。だから、私も頑張りたいんです。応援してください」

「何を頑張るの」

「内緒です」

「ふうん」

桜庭さんはそう言って前を向いた。その横顔が、いや横顔さえうつくしい。じっと見つめていると、不意にその瞳が私を映す。

「頑張らなくていいよ」

「えっ……」

「うそ。がんばれ」

意地悪な笑顔もたまらない。

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