蝶よ花よ、あこがれに恋して
「で、なにを頑張るの」
桜庭さんは勝気な視線を送る。
試合はもう終わったので、つよつよモードの桜庭さんは控えていただくとありがたい。
「あ……あの、私の家にアイスがあるんです。ちょうど、二つ。食後だし、その……一緒に食べませんか?」
大胆ながらたどたどしく紡いだ提案を、桜庭さんは「え、まさかそれ?」と首を傾げるので「はい、これです!」とマウントにもならないものを自慢げに胸を張ると、桜庭さんの視線がふらっと宙を漂うと、ふたたび私の元へ戻る。
「じゃあ俺、一旦荷物置いて心鈴ちゃんの家に来るわ」
「あ、だったら私が桜庭さんの家までアイスをお持ちします」
「あー……いや、あとで俺が行くわ」
桜庭さんの答えはとても歯切れが悪いものだった。
いくらなんでも、ちょっと図々しかったかなあ……。
「わかりました。じゃあ、待ってますね」
反省して自分の家に戻ると、桜庭さんにもらったサインボールを玄関に飾り、ユニフォームを脱いだ。フェイスペイントもしたままだときづき、拭き取るタイプのメイク落としで拭った。
現実に戻ってきた感覚。
そういえば、合鍵もまだ返却出来ていなかった。ルーズな人間を好む人はいないだろう。忘れないうちに桜庭さんの家の鍵をテーブルに置くと、ソファーの上で桜庭さんの到着を待った。
「(大胆すぎたかなあ……)」
自分から男の人を誘うって、私史上類を見ない快挙とも言える。でも、桜庭さんもたくさん頑張っていたし、私が頑張ることも、悪くないよね。