蝶よ花よ、あこがれに恋して
『(……今出ていくの、きまずいな)』
一部始終を聞いたからこそ動けずにいると、〝こすず〟は膝を曲げて蹲った。
『俺が大事にする、じゃないんだ』
ポツリとひとりごちた声も、引き攣る呼吸も、その背中も震えていた。
手を差し伸べる理由もない。
ただ、タイプの女が目の前で振られたってだけ。
ここで格好よく、気の利く言葉を掛けてやるのが良い男?
いやいや、無理だろ。
俺は、ほぼ初対面の女に歯が浮く言葉を掛ける男じゃねえわ。
『凹むな、ふられるのはいつものことじゃん。傷つかない、えっちはちょっと我慢すればいいだけ、重くならない、気にしない、好きになりすぎない、束縛しない……』
そんな考えを張り巡らせていれば、〝こすず〟はぶつぶつと反省した後、『よしっ!』と掛け声とともに立ち上がるとパチンと頬を叩いた。そうして、向かいのマンションのエントランスへと駆けてゆく。
単純に、年が離れすぎてただけでしょ。ロリコン野郎に時間を費やさなくて寧ろ良かったんじゃね?
『どんまい』
ポツリと呟く。
〝こすず〟の別れ話を聞いた一週間後、ロリコン野郎が街中で、ほかの女と歩いているのを見掛けた。まあまあ驚いたのは、男が幼い子どもを抱いていたことだ。
あー、そういう……。
思いがけず、全く関係のないにんげんの別れ話に隠れた真実を知る。