蝶よ花よ、あこがれに恋して


「そうか、彼氏って元推しだっけ」

「はい!推しと付き合えるなんて……私、それだけで幸せ者です……!」

「へえ〜、推しとキスとかえっち出来るとか、確かに幸せかもね?」

「えっ……、」

流暢に話していた言葉がすうっと消えた。それと同時に胸に存在していたあたたかいものが熱を失う。

「どうしたの?」

白瀬さんが不思議そうな視線を向ける。

「(……言えない……)」

「や、なんでもないです。私、在庫確認から始めますね」

あわてて厨房へ向かって、固いため息をお腹の奥底から吐き出した。

ハグもするし、キスもする。
一緒に並んで眠る。手も繋ぐ。眠る前にキスもする。

けれど桜庭さんは、キスより先を求めない。

「(シーズン中にそういうのしちゃうと、コンディションが悪くなったり、するのかな……)」

体力は温存させていた方が絶対に良いだろうし、そうだよね、うん。

「(そうだよね……?)」

業務用の冷蔵庫に手をかけて悶々と悩んでいると「昨日の注文書、どこだっけ?」と、白瀬さんがやってきた。

「白瀬さんも、恋人、いますよね」

「え?うん、いるけど」

「その……頻度とかって、どのくらいですか?」

「うちはプチ遠恋中だし、週1とかだよ。胡桃沢さんは付き合ってすぐだし、家も徒歩圏内だったらほぼ毎日してるでしょ」

「(ほぼ、毎日……!?)」

愕然とした。
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