蝶よ花よ、あこがれに恋して




『心鈴ちゃんの周りをウロウロされたくないから、心鈴ちゃんに関すること、プライベートなこと以外は答えたから読んで。伏せて欲しいところは教えて』

『……分かりました……!』


気合いを入れて、書類に目を落とす。

日本を熱狂させたあの勝利の裏側。静まり返ったスタジアムの中で、誰かを待ちわびるかのように座る一人の美女が。やがて彼女の前に現れたのは、日本の若き司令塔、桜庭志邑(25)。その目は、試合中見せることの無い優しさが溢れていた……。(中略)周囲を気にする素振りでタクシーに乗り込むふたり。今夜は新恋人と祝杯か──(スポーツ紙芸能記者)

けれど、すぐに悶絶した。

……え、なんですかこれ、ドラマのワンシーンですか??

ええ、私のことですね。覚えていますよ、もちろん、もちろん……。

読みながら頬が燃えるように熱くなった。あの日、誰かに見られていたなんて思いもしなかった。

『ちょっと、一旦、給水を……』

『給水って』

桜庭さんは笑いながらも『読んでて、冷蔵庫開けるね』と、言ってキッチンへ向かった。一旦冷静になるために、頭を冷やさなければ読めそうにない。

今夜は長丁場になりそうだ……!

気を引き締めて続きを読む。しばらく読み進めると、インタビュー記事に切り替わった。

記者:恋人のことをなんとお呼びしていますか?
桜庭:名前に、ちゃん付けです

『きゃああああ!!!』

初めての現象です。当たり前のことなのに、文字で見ると悶絶してしまう。

『え?どうしたの』

『いえ、なんでもないです!!』

駄目だ。心臓が持ちそうにない、酸素ボンベも出来れば欲しいし、あとあと……

『ねえ、平気?今度にする?』

不安そうに覗き込む桜庭さんに心配をかけまいと『心鈴、まだいけます!!』と、なんとか平常心を保つ。
< 95 / 137 >

この作品をシェア

pagetop