優しい雨が降る夜は
(えっ……、すごい)

2重扉の2つ目を開いた途端、飛び込んできたピアノの音に圧倒されて、美月は立ち尽くす。

広いホールいっぱいに、キラキラと輝くような音の粒が響き渡っていた。

見下ろした先のステージで、ピアノに一人向かっている友利の姿。

この音が、彼一人の手によって生み出されているとは思えないほど、美月の全身にシャワーのように音が降り注ぐ。

(なにここ、宇宙? 異次元の世界?)

不思議な感覚に囚われたまま、言葉もなくただ聴き惚れた。

空間を支配していた音の世界は、やがて彼が手の動きを止めて、静けさを取り戻す。

美月もようやく我に返った。

「あ、風間さん」

友利が顔を上げて、美月に笑いかける。

美月はホールの階段を下りてステージに近づいた。

「もう時間ですか?」

友利にそう聞かれても、美月はまだ余韻から抜け出せない。

「はい、あと10分で。あの、びっくりしました」

え?と、友利が首をかしげる。

「もしかして、聴いてくださったんですか?」
「聴くというよりは、衝撃的な体験をしたような……。一瞬で別世界へと連れて行かれました。今の曲もショパンなのですか?」
「はい。エチュード、つまり練習曲です」

エチュード?と、美月は驚いた。

「とてもそんなふうには思えませんでした。情景が目に浮かぶような……。華やかで、きらびやかで、夜空から流星群が降り注ぐみたいに、美しい世界に包まれました」

友利は驚いたように目を見開いてから、柔らかい笑みを浮かべる。

「ありがとうございます。最高に嬉しいです」
「え? あの、すみません。技術的なことが分からないので、的外れなことを言ってしまって……」
「それがとても嬉しいのです。ありがとう、風間さん」

その言葉に嘘はないのだろう。
友利の言葉も、美月の胸に真っ直ぐ届いた。

(こんなふうに、誰かに心を開いてもらえるなんて)

屈託のない友利の笑顔に、いつの間にか美月も笑みを浮かべていた。
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