優しい雨が降る夜は
「あ、美月さん! お疲れ様です」

カウンターに行くと、アルバイトの詩音(しおん)が笑顔で近づいて来た。

大ホールで催しがある時は人手が必要になる為、登録制のアルバイトに手伝ってもらっている。

「お疲れ様、詩音ちゃん。今夜のリサイタル、よろしくね」
「はい! なんたって、友利 健二のリサイタルですからね。 ああ、楽しみ! もう楽屋入りしてるんですか?」
「うん。今、ホールで音出ししてるよ」
「えー、聴きに行きたい! 上手いんだろうなあ」

詩音は両手を組んで、目を輝かせた。

「あ、そっか。詩音ちゃん、ピアノやってるんだよね?」
「はい。私の周りでも、友利 健二のファンは多いですよー。今夜も聴きに来る知り合いたくさんいるし」
「それなら、詩音ちゃんも客席で聴きたかったんじゃない? お客様の来場が落ち着いたら、ホールの中で聴いていいわよ」
「ほんとですか!?」

詩音はガバッと美月に抱きつく。

「やったー! ありがとうございます、美月さん。この御恩は決して忘れませぬ」
「そんな大げさな……。しかもどうしてそんな口調なの?」
「美月様に合わせたのでござる」
「私、忍者じゃないからね」
「拙者、承知でござる!」
「やれやれ……。ほら、ホワイエの準備に行くわよ」
「ニンニン!」

テンションの高い詩音を連れて、美月はホワイエに向かう。

テーブルを並べてプログラムやチラシを置き、受付を設置した。

「お花やプレゼントを預かったらここに置いてね。アンケート回収ボックスはこれ。詩音ちゃんは慣れてるから、他のアルバイトの人達にも説明しておいてくれる?」
「がってん承知之助!」
「……詩音ちゃん、もはやそれ親父ギャグだからね?」

あとは詩音に任せて、美月は腕時計に目を落とす。

(開場10分前か。そろそろ友利さんに声かけに行かないと)

そう思い、ホールの一番後ろの扉を開いた。
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