優しい雨が降る夜は
「こんばんは、いらっしゃいませ」

開場時間になり、美月は詩音達と一緒に、にこやかに来場者を迎えた。

チケットの半券を切り、プログラムとアンケートを手渡し、友利への花束や手紙を預かる。

やはり若い女性客が多く、皆オシャレに着飾って楽しそうにホールへと向かった。

開演5分前にはほぼ全員がホールに着席し、ホワイエはガランと静かになる。

「お疲れ様。詩音ちゃん、お客様の様子をうかがいがてら、ホールで演奏聴いて来ていいわよ」
「ほんとですか? ありがとうございます!」

詩音はウキウキとホールの中に入って行った。

「美月さん。友利さん側にはステージマネージャーとか、スタッフはいるんですか?」

舞台関係の専門学校に通っているアルバイトの男の子に聞かれて、美月は首を振る。

「ううん、いないと思う。お一人で来られてたから」
「それなら、一応楽屋に呼びに行った方がいいんじゃないですかね?」
「確かにそうだわ。私、行ってくる。教えてくれてありがとう」
「いいえー。お願いします」

美月はタタッと小走りで通路を駆け抜け、楽屋のドアをノックした。

「はい」
「友利さん、風間です。お時間3分前ですが、準備はいかがですか?」
「大丈夫です。今行きますね」

ガチャッとドアが開いて友利が姿を現すと、美月は驚いて目を見張った。

「わあ、友利さん、パリッパリですね」
「はっ?」
「あ、失礼しました。髪型もパリッと整っているし、タキシードもパリッと着こなしていらして、素敵です。と言おうとして、ものすごく端折ってしまいました」
「ははは! なるほど。良かった、一瞬せんべいになった気分でした」
「すみません、これから演奏されるピアニストの方に……」

身を縮こめる美月に、友利は明るく笑う。

「いいえ、おかげで緊張がほぐれました。楽屋に一人でいると悶々としてしまって、テンションも下がり気味でしたから」

二人で下手の舞台袖に行くと、スタッフが顔を上げた。

「開演1分前です。よろしいですか?」
「はい、大丈夫です」

友利はキリッと表情を引き締める。

「それでは、本ベル鳴らして照明落とします」

客席にチャイムが鳴り、照明が絞られると、人々のざわめきが消えた。

「友利さん、行ってらっしゃい」

美月が笑顔で送り出す。

「行ってきます」

友利は口角を上げて頷くと、スッと背筋を伸ばしてステージへと歩き始めた。
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