優しい雨が降る夜は
「大通りに出れば、すぐにタクシーを拾えると思います」
「タクシーか……。電車で帰るつもりだったんだけどね」
「ふふっ。こんなにたくさんの花束とプレゼントを抱えて、電車に乗る勇気はおありですか?」
「……ございません」

降参とばかりに頭を下げる友利に、美月は笑い出す。

「友利さんなら、あっという間にタクシーを乗りこなすリッチな生活になりますよ。もう既にファンの方がたくさんいらっしゃるんですから」
「うーん、実感が湧かないなあ」
「ではご自宅で、ファンレターをじっくり読んでくださいね。あ、空車のタクシー来ました」

美月が手を挙げると、タクシーはウインカーを出して二人の横に止まる。

「すみません、トランクお願いします」

美月は運転手に声をかけると、手にした荷物をトランクに入れた。

「風間さん、なにからなにまで本当にありがとう」
「いいえ。リサイタルのご盛会、おめでとうございます。これからもどうぞお身体に気をつけて、ご活躍くださいね」
「ありがとう。あなたにまたいい演奏を届けられるよう、精進します」
「はい。本日は当ホールをご利用いただき、ありがとうございました」

笑顔でタクシーに乗り込んだ友利を、美月はお辞儀をして見送った。
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