優しい雨が降る夜は
「お待たせしましたー!」

飲茶専門店の個室に案内されると、既に5人の男の子達が席に着いていた。

「おおー、ようこそ! さ、どうぞ座って」

真ん中にいた男の子が立ち上がって、席へと促す。

「はーい、失礼します。えっと、わたくしはここにしようかしら。お姉さんは?」
「では、わたくしはお隣に」
「あら、男女で交互に座った方がよろしいですのよ」
「そうなのですか? 作法を知らずに申し訳ありません」
「よろしくてですのー」

すると男の子達が一斉に笑い出した。

「面白いね、君達。じゃあ早速だけど、名前を聞かせてもらおうかな」

はーい!と返事をして、端の女の子から順番に名乗っていく。

「かんなでーす」
「さなえでーす」
「ゆいかでーす」
「みそらでーす」
「風間 美月と申します」

ドッと男の子達から笑いが起こった。

「なにそれ、仕込んで来たの? 超面白い!」
「あらー、わたくし達、普段からこんな感じですのー」
「楽しい時間になりそうだな。早速、乾杯しよう」

ビールで乾杯すると、次々と円卓に蒸し立てのせいろが運ばれてきた。

「お姉さん、どれがよろしくて? わたくしが取って差し上げますわ」
「ありがとう。片っ端からいただこうかしら」
「あははー! よろしくてよー」

なぜだか男性陣も乗っかり「お姉さーん、こちらも召し上がれー」と回転テーブルを回して美月の前にせいろを運ぶ。

「ありがとうございます、いただきます」
「お姉さんに贈り物、そーれ!」
「こんなにたくさん貢ぎ物が……」

いつの間にか、美月が話の中心になっていた。

「お姉さん、このふかひれスープ絶品ですよ」
「ありがとう、コラーゲンが潤いそうですね」
「じゃあ、俺からはこの桃饅頭を」
「ありがとう。でももうこの辺で。レイジースーザンで遊んではいけないわ」

ん?と皆は動きを止める。

「なんですか、レイジースーザンって」
「この回転盤の名前よ」
「これって、え?」

ええー?と、皆は声を揃えて仰け反った。

「このくるくるテーブル、そんな名前があったんだ!」
「レイジースーザンって、ショップの名前かと思ってた」
「お姉さん、それほんと?」

美月は真顔で頷く。

「直訳すると、怠け者のスーザンってことなのだけど、この回転盤をくるっと回せば、わざわざ立ち上がって取らなくてもいいから怠け者には便利だねってことで。スーザンは諸説あって、当時のイギリスではメイドの代名詞だったとか、よくある女の子の名前だからとか。ショップの名前に使われたのも、店内をぐるっと回ればお気に入りのものが見つかるってコンセプトのようです」

へえー!と一斉に感心したような声が上がった。

「さすがはお姉さん。万年生きていらっしゃるわー」
「ははは! なんだよ、それ」
「人生何周目なの? スーザン姉さん」
「教えてー、物知りなスーザン姉さーん」

結局美月はその後も、抜け出すタイミングが掴めなかった。
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