優しい雨が降る夜は
(はあ、まだ1時間しか経ってない)

美月は時計を見上げてため息をつく。

誰にも会わず、誰ともしゃべらずにひたすらパソコン作業をしていると、時間が経つのがやたらと遅く感じた。

(予約状況の確認と、ホームページの更新。あとはイベントのチラシを作って……。ああもう! やることはたくさんあるはずなのに、どうしてこうも集中出来ないの?)

思わずため息ついて頭を抱える。

(私って気の利いたことが言えないから、人との会話は苦手だと思ってたけど、実は何気なくおしゃべりするのが好きだったんだな)

顔見知りの利用者や、館長や同僚。
軽い挨拶だけだとしても、誰かと言葉を交わせるのは幸せなことなのだと気づいた。

(早くカウンターに戻りたい。大丈夫、きっともう誰も私のことなんて聞きに来ないから。明後日には戻れるよね)

そう自分に言い聞かせた時だった。

「美月ちゃん、いる?」

ノックの音と共に、パートの桑原の声がした。

「はい、います」

返事をすると、ドアを開けて桑原が顔を覗かせる。

「良かった、無事ね」

ホッとしたような桑原の様子に、美月は首をひねった。

「どうかしたんですか? 桑原さん」
「うん、それがね。今カウンターに女性の三人組が来て、『この写真の人を呼んで』って館長に詰め寄ってるのよ」

えっ!と、美月は驚いて立ち上がる。

「今ですか?」
「そう。館長が必死に『そんな人はここにはいません。他の方のご迷惑になりますからお引き取りください』って説得してるんだけどね。とにかく美月ちゃんが見つからないようにと思って、声かけに来たの。美月ちゃん、ここから出たらだめよ」
「そんな、館長が大変なのに」
「あなたが出て行ったらもっと大変なことになるわ。いい? ここから動かないでね。私も館長と一緒に、なんとか説得してみるから」

そう言うと、桑原は急いで部屋を出て行った。
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