優しい雨が降る夜は


「お帰り、優吾(ゆうご)

ビルの15階にあるオフィスに戻ると、デスクでパソコンに向かっていた同僚の光太郎(こうたろう)が顔を上げた。

「腹減った。なに買ってきた?」
「あー、ごめん。買ってない」
「はあー? なんか買ってきてくれって頼んだだろ?」
「それが、外すごい雨でさ。濡れると思って」
「えっ、雨降ってんの?」

光太郎は立ち上がると窓際に行き、ブラインドの隙間から外を眺める。

「ほんとだ。結構降ってるな」
「ああ」
「その割にはお前、濡れてなくない?」
「ん? まあ、よけたからな」
「よけたって、なにを?」
「雨を」

はいー?と眉間にしわを寄せる光太郎の肩をポンと叩いて、優吾は自分のデスクに行く。

コートの内ポケットからタブレットを取り出してカバンにしまうと、パソコンもシャットダウンした。

「光太郎。今日はもう終わりにして、なんか食べに行かないか?」
「おっ、行く行く! でもまだ終わってないタスクあってさ」
「じゃあ、食べ物買って来なかったお詫びに、俺が今夜うちでやっておく」
「いいのか? やったぜー! 秒で支度するから、待ってろ」

慌ただしくデスクの上を片付け始めた光太郎を、優吾は苦笑いを浮かべながら待つ。

二人の職場は、アメリカに本社を置く外資系コンサルティング会社で、勤務時間も自由。

もともとそんなに社員は多くないこともあって、オフィスには他に誰も残っていなかった。

「お待たせ! いつもの居酒屋行こうぜ」
「はいはい」

優吾は光太郎と肩を並べて、オフィスをあとにした。
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