優しい雨が降る夜は


「ただいま」

マンションに帰ってくると、美月は明かりが点いているリビングのドアを開けて声をかける。

「お帰りー、お姉ちゃん」

二人暮らしをしている大学4年生の妹、美空(みそら)が、ソファの前の床に座ってフェイスパックしたまま振り返った。

「雨、急に降ってきたけど大丈夫だった?」
「うん、いつも折りたたみ傘を持ち歩いてるから」
「さっすがー! 私はびしょ濡れで、さっきシャワー浴びたところ……ん? カフェでなにか買ってきたの?」

美空の視線を追って、美月は「ああ、これ」と手にしていた紙袋をソファの前のローテーブルに置いた。

「なんかちょっと、わらしべ長者的なことになって……」
「どういうこと? 中、見てもいい? あー、エッグベネディクトにクロックムッシュだ! このカフェ、結構なお値段するから、買えないんだよねー」

確かに、と美月も袋の中を覗き込む。

トロリと溶けたチーズとポーチドエッグがこぼれそうなほどたっぷり載ったエッグベネディクトと、こんがり焼き色のついたボリュームのあるクロックムッシュが、ボックスの中に溢れんばかりに入っていた。

「美味しそう! ね、お姉ちゃん。半分ちょうだい」
「言うと思った」
「でしょ?」

ふふっと笑い合うと、美月は紙袋を手に立ち上がってキッチンへ行く。

手を洗ってからお皿を二枚用意し、ナイフで半分に切って取り分けた。

「はい、どうぞ。まだほんのり温かいわよ」
「ほんとだ。いっただっきまーす!」

美空は大きな口を開けて、エッグベネディクトを頬張る。

「んー、美味しい! うちで食べると、食べ方気にしなくていいから最高!」

フェイスパックをつけたまま、美空は満面の笑みを浮かべた。

「ほら、お姉ちゃんも食べなよ」
「うん、いただきます」

美月も半分にカットしたエッグベネディクトを手に取り、ひと口かじる。

トロリとした卵とチーズ、カリッと焼いたベーコンが口の中でジュワッと混ざり合い、なんとも言えない美味しさが広がった。

「はあ、美味しい……」
「でしょー? 目をつぶれば高級ホテルのラウンジで食べてるみたい」

顔を上げたまま目を閉じ、うっとりと味わっている美空に、美月は笑い出す。

「美空、ご満悦ね」
「うん、優雅なひとときになったわ。ありがとう、お姉ちゃん」
「どういたしまして。って、私が買った訳じゃないんだけどね」

すると美空は急に真顔になった。

「そうなの? じゃあ誰が買ったの?」

美月は思い出しながら説明する。
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