優しい雨が降る夜は
「どうぞ入って」

着いたのは湾岸エリアの高層マンション。
25階に上がると、優吾は突き当りの部屋のドアを開けて、美月を振り返った。

「はい、失礼します」

促されるまま、美月はぼんやりとした表情で中に足を踏み入れる。

パッと明るくなった玄関の奥の部屋から、温かい空気が流れてきた。

「暖房を入れておいた。すぐにシャワーを浴びておいで。お湯も張ってあるから」
「え? あの、そんな。ドライヤーだけ貸していただければ、すぐに帰ります」
「どこに? 自宅には帰れないんじゃないのか?」
「ですから、その……。どこか、夜を明かせるところに」

優吾は大きなため息をつく。

「きちんとした性格かと思いきや、随分危なっかしいことを言うんだな。分かってる? 女の子が雨に濡れたまま夜の街をさまようのが、どんなに危険かってこと」
「……はい」
「分かってないね。冷えきった身体のままでいたら、風邪を引くってことも。ほら、早く温まっておいで」

優吾は美月をパウダールームに連れて行くと、タオルとバスローブを渡した。

「服はこの洗濯機に入れて、このボタンを押して。自動で乾燥までいくから。シャンプーやボディソープも、俺ので良ければなんでも自由に使って。じゃあ、ごゆっくり」

パタンとドアが閉まり、静けさが広がる。
途端に寒気がして、美月は身震いした。

服を脱いで洗濯機に入れ、スイッチを押してからバスルームに入る。

「わあ、素敵」

まるでホテルのような、広くて高級感あふれるバスルームに、美月は思わずうっとりと呟いた。

早速シャワーを浴びると、温かさと心地良さに心の底からホッとした。

「えっと、これもお借りしていいのかな?」

スタイリッシュなボトルが並ぶラックに目を凝らし、シャンプーやコンディショナーを借りて髪を洗う。

ボディーソープのポンプからは、ふんわりときめ細かな泡が出てきて、思わず笑みが浮かんだ。

「はあ、気持ちいい」

大きなバスタブのお湯に肩まで浸かり、手足を伸ばすと、心も身体もほぐれていく。

「幸せ……」

ポツリと呟いてから、さっきまであんなに打ちひしがれてたのに?と、自分に苦笑いした。

「単純だな、私って」

いや、案外そういうものかもしれない。
気持ちが落ち込んでいる時は、せめて身体だけでも労ろう。
そうすれば、自然に心も回復するかもしれないから。

美月はそう思いながら、ゆっくりと時間をかけて身体を温めていた。
< 30 / 93 >

この作品をシェア

pagetop