優しい雨が降る夜は
「それで、聞いてもいいか? 帰れない事情を」
「あ、はい」

コーヒーを飲んで落ち着くと、優吾に切り出され、美月は順を追って話し始める。

全て聞き終えると、優吾は「そうだったのか」と呟いた。

「大変だったな。近年のSNSの影響は、凄まじいものがある。テレビの中の世界とは違って、実生活に直結する。職場も自宅も脅かされたのでは、心身ともに参ってしまう。君は自分が思うよりも、もっと大変な状況にあったはずだ。本当によくがんばった」

思わぬ言葉をかけられて、美月の目が涙で潤む。

「これ以上我慢する必要はない。君はなにも悪くないんだから」
「でも、どうすればいいのか分からなくて……」
「しばらく仕事を休めるんだろう? まずはゆっくり安全な場所で過ごすといい。それからよければ、そのSNSの写真を俺も見てみていいか?」
「はい。私はSNSをやってないのでよく分からないのですが、友利 健二と検索すれば出るそうです」
「分かった、ありがとう」

優吾はスマートフォンを取り出すと、早速検索して記事にざっと目を通す。

「確かにかなり話題になってるな。だけど友利 健二がなにも反応していないのが幸いだ。本人が、取るに足りない噂に過ぎないという姿勢でいれば、少しずつ騒ぎも収まると思う。もう少しの辛抱だ」
「はい」
「さてと、じゃあ食事にしよう。お腹空いただろう?」

言われてみれば、なにも食べていなかったが、お腹が空いている感覚もなかった。

「温めるだけの、超必殺手抜き時短メニューをご用意するよ」
「ふふっ、なんですかそれ」
「まあ、見てなって。ダイニングテーブルにいて、すぐに運ぶから」
「お手伝いします」
「レンジに入れるだけだぞ?」
「ふふふ、はい」

キッチンに並んで立ち、レトルトの惣菜をお皿に移して温める。

「スープはどっちがいい? ミネストローネか、クラムチャウダー。俺のおすすめはクラムチャウダー」
「ふふっ。ではクラムチャウダーをお願いします」
「いい選択だ」

一人でいるとふさぎ込むばかりだったが、誰かがそばにいてくれるだけで、こうも気分が明るくなるとは。

美月は優吾に感謝しながら、美味しい食事を楽しんだ。
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