優しい雨が降る夜は
何事もなく日々が過ぎ、そろそろカウンターに出てもいいのではと思い始めた頃。

バックオフィスで美月は、かかってきた内線電話に出た。

「はい、受付です」
『あの、大ホールを利用中なんですが、空調が上手く調節出来なくて……』

若い女性の声に、美月はすぐ返事をする。

「かしこまりました、今から伺いますね」

今日は平日で、特に催しはない。
この時間の大ホールは、ピアノの練習として二名の予約が入っていた。

練習目的なら利用料も割引される為、音大生やアマチュアも大ホールで練習することがよくある。

受付時にカウンターにいなかった美月は、どんな人が利用しているのだろうと思いつつ、バックヤードから直接通路に出て大ホールに向かった。

ホールの中央付近の扉を開けた瞬間、耳に飛び込んできた音に美月は立ち尽くす。

(この曲……、まさか)

顔を上げると、ステージでショパンのあのエチュードを弾いている友利の姿があった。
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