優しい雨が降る夜は
モテる美月
梅雨が明け、本格的な夏の暑さがやって来た。

「あーつーいー。俺もう、無理」

オフィスのデスクに突っ伏した光太郎に、優吾はカタカタとパソコンを打ちながら口を開く。

「今日はもう帰って、テレワークにすれば?」
「帰るにしても暑くて外に出られん。それに夜は、そらと一緒に食事に行くことになってる」
「美空ちゃんにマンションに来てもらえばいいだろ?」
「はあ? お前な、それでも男か? 大事な恋人をそんな邪険に出来るか」

思わぬ言葉に、優吾は手を止めてまじまじと光太郎を見た。

「なんだ。ちゃんとしてるんだな」
「当たり前だろ。俺をなんだと思ってる?」
「だって長い間、本命の彼女もいなくてフラフラ遊んでたからさ。良かったな、本気で惚れ込む相手を見つけられて」
「まあな。そう言うお前はどうなんだよ?」
「俺は別に変わりない」

そう言って再びキーボードに指を走らせる優吾に、光太郎はグイッと顔を近づけた。

「お前だって、気になる相手がいるだろうよ?」
「別に」
「またまたー。意地張らないで連絡してみろよ」
「連絡先を知らない」

すると光太郎は、ニヤリと笑う。

「へえ、誰の?」

優吾はハッとして手を止めた。

はめられたと分かり、ジロリと横目で光太郎を睨む。

光太郎は頭の後ろで両手を組み、愉快げに笑い始めた。

「カタブツのお前がうろたえるなんて、こりゃマジだね。恋は盲目とはこのことですよ。俺とそらのことより、お前とつきちゃんの方がいい感じなんじゃないの?」
「そんな訳あるか。連絡先も知らないし、あれ以来会ってもないのに」
「そらに取り持ってもらえば?」
「いいよ、会ってどうするって言うんだ」
「この先ずっと会えなくてもいいのか?」
「ああ、別に構わない」

淡々と答えると、しばらくしてから光太郎が真剣に切り出した。

「優吾、一応知らせておく。そらから聞いたんだ。つきちゃん、次の誕生日までに彼氏が出来なければ、地元でお見合いするらしい」
「……お見合い?」
「ああ。そら曰く、父親同士が親友で、子どもの頃に遊んだこともある仲らしい。お相手は乗り気で、つきちゃんもそのつもりだって。つきちゃんの誕生日を過ぎたら話を進めるらしい」
「……誕生日って、いつだ?」
「気になるなら、どうにかしてつきちゃんに連絡取れ。じゃあな」

立ち上がる光太郎に、優吾は声をかける。

「おい、どこに行く?」
「やっぱり在宅ワークにする。んで、夜になったら車でそらを迎えに行くわ」
「夜のオンラインミーティング、忘れるなよ」
「はいよー」

光太郎が去ったあと、優吾は小さくため息をつく。

(お見合いか、今どき珍しい。いや、古風な彼女なら、恋愛結婚よりお見合い結婚の方がしっくりくるのかも……)

きっとお見合いしたら、そのままトントン拍子で結婚まで行くのだろう。

そう考えた途端、優吾の心に暗い影が射し込んだ気がした。
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