優しい雨が降る夜は
(どうするべきか。とにかく誕生日がいつなのかだけでも聞いてみようか)

数日経っても、ふとした瞬間に優吾は美月のお見合い話を思い出す。

(こんなにそわそわするのは、誕生日がいつなのか分からないからだ。そうだ、そうに違いない)

さり気なく光太郎に聞こうとしても、なにやらニヤニヤと身構えている様子に、やはりやめようと押し黙る。

そんな日が続く中、優吾は夜のオンラインミーティングの前にひと息つこうと、例のカフェに向かった。

「あっ、雨宮さん」
「えっ!」

カフェに入って注文カウンターに並ぶと、オーダーを終えて振り返ったのは、美月だった。

「お久しぶりです。休憩ですか?」
「ああ、うん。君は?」
「仕事終わりに立ち寄りました。雨宮さん、テイクアウトですか? お時間あれば、少しだけでもご一緒に……」

聞かれて優吾はすぐさま頷く。

「もちろん」
「良かった。では、先に席を探しておきますね」
「ああ、すぐ行くから」
「はい」

緩みそうになる口元を引きしめつつ、カウンターでドリンクをオーダーする。

するとすぐ横の返却口にカップを返しに来た大学生らしき男の子が、「あれ? もしかしてスーザン姉さん?」と声を上げた。

「ほんとだ、スーザン姉さん!」

一緒にいたもう一人の男の子もそう言い、二人で嬉しそうにテーブル席に向かう。

何気なく目で追った優吾は、二人が向かった先に美月がいるのが分かり、驚いて目を見開いた。

(は? 一体どういう……。スーザン姉さんって、なんだ?)

笑顔で美月に近づいた男の子達が「スーザン姉さん!」と呼びかけると、美月は顔を上げて「あら」と微笑む。

どうやら本当に知り合いらしい。

「良かった、姉さん元気そうで。みんな姉さんのこと心配してたんだよ」
「そうなのね、ありがとう。もう大丈夫だから」
「今度みんなで集まる時は、姉さんも来てよ」
「私のことはお構いなく。そこはお若い皆さんだけでどうぞ」
「あはは! 相変わらず面白いね」

楽しそうに話したあと、「じゃあねー!」と男の子達は美月に手を振った。

「偶然会えて良かった。スーザン姉さん、ほんとにまた来てほしいよな」
「ああ。ぐいぐい誘おうぜ」

そう言いながら男の子達は、優吾の横を通り過ぎる。

しばし呆然としていた優吾は、ようやくドリンクを手に美月のテーブルに向かった。
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