優しい雨が降る夜は
「雨宮さん、雨宮さん?」

美月に肩を揺すられて、優吾はゆっくりと目を覚ます。

ソファに突っ伏して、いつの間にか眠っていたらしい。

カーテンの隙間から朝日が白く射し込んでいた。

「すみません、雨宮さん。また私、ご迷惑をおかけしたのですね」

美月が神妙に頭を下げる。

「夕べの記憶がなくて。雨宮さんが私をここまで送って来てくださったのですか? 本当に申し訳ありませんでした」
「いや、大丈夫だ」

身体を起こした優吾は、ふと違和感を感じた。

(夕べの記憶が、ない?)

見ると美月は、床に正座したまま身を縮こめている。

他人行儀な口調と少し離れた距離感は、昨夜互いに気持ちを打ち明けた仲だとは思えなかった。

(もしや、覚えてないとか?)

いや、間違いなくそうなのだろう。

(勘弁してくれ。ようやく、ようやく俺の腕の中に来てくれたと思ったのに……)

思わず頭を抱えると、美月が心配そうに顔を覗き込んできた。

「すみません、お疲れですよね? これから少し横になりますか? まだ5時半ですから」
「いや、大丈夫だ。うちに帰るよ」
「では朝食を作りますので、よかったら……」
「ありがとう。でもオンラインミーティングがあるから、あまりのんびり出来ないんだ」
「そうですよね。本当にすみませんでした。今、タクシーを呼びますね」

美月はスマートフォンを操作してタクシーを手配すると、優吾を見送りにマンションのエントランスまでついて来た。

「ありがとう、もうここで」
「はい。あの、雨宮さん。いつもいつもご迷惑ばかりおかけして、本当に申し訳ありません」
「いいよ、気にしないで」
「ですが、さすがにこうも重なると……。日を改めてお礼とお詫びをしたいので、あの、よろしければ連絡先を教えていただけませんか?」

えっ!と、優吾は急に気持ちが舞い上がる。

「ああ、もちろん」

キリッとした顔つきでサッとスマートフォンを取り出し、スススッと無駄のない動きで美月とメッセージアプリのアカウントを交換した。

「では、また」
「はい、私からご連絡差し上げます。本当にありがとうございました」

美月に見送られてタクシーに乗り、優吾はじわじわと喜びが込み上げてくる。

(上がって落ちて、また上がり……ってところか。諦めないぞ、何度でもトライする。今度は酔ってない時に)

優吾は己に言い聞かせて頷いた。
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