優しい雨が降る夜は
「えっと、まずは落ち着こう。雨宮さんは22時頃に車で迎えに来てくれるから、まだまだ時間はたっぷりある」

一度帰宅すると、美月は荷物を準備しながら必死に己に「落ち着け」と言い聞かせる。

「お泊りセット、よし! 戸締まり、よし! 心構えは……、まだー!」

気づけば22時になり、優吾から「着いたよ」とメッセージが来て、美月は涙目になりながらエントランスに下りた。

「お待たせしました」

タタッと駆け寄ると、長い足を持て余すように車に寄りかかっていた優吾が顔を上げる。

「いや。……可愛いな」
「はい?」

思いもよらぬ言葉に、聞き間違いかと面食らう。

「行こう」

優吾は美月の手からさり気なくバッグを取ると、助手席のドアを開けた。

「失礼します」

乗り込む美月の腕を、優吾がまたしてもそっと支える。

「ドア閉めるよ」
「はい」

優吾が運転席に座ると、美月は妙に意識してしまい、身を固くする。

「ん?」

優吾は美月に目をやると、いきなりガバッと覆いかぶさってきた。

(ヒーーッ! いきなりですか? もう? ここで?)

美月がギュッと目を閉じていると、耳元でシュッと音がした。

(あれ?)

恐る恐る目を開けると、優吾が美月のシートベルトをカチッと締めているところだった。

「え、あっ! すみません」
「どういたしまして」

クスッと笑う優吾から、大人の余裕と男の色気が漂ってきて、美月はノックアウトされる。

(もう、だめ……。身がもたない)

この調子では先が思いやられると、美月は走り出した車の中で必死に考えを巡らせていた。
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