優しい雨が降る夜は
◇
温めた惣菜やスープを食べがら、優吾はチラリと美月の様子をうかがう。
いつにも増して真剣な表情でうつむいているのが気になった。
(なんだ? 話があるって)
そう考えてハッとする。
(まさか、お見合いの話が進んでいるとか?)
そうだ。
気持ちが通じたと浮かれていたが、美月は誕生日が過ぎたら親同士が決めた相手とお見合いすることになっていたはず。
(断らなかったのか? もしや、俺とのことは、そこまでじゃなかったとか?)
考え始めたら止まらない。
(頼むから、違うと言ってくれ)
祈るような気持ちで食事を終えると、ソファに並んで座った美月が、思い切ったように一枚の紙を差し出した。
「雨宮さん、あの、こちらを」
「なに、これ?」
ドキドキしながら受け取る。
「どうしてもお伝えしたいことがあるのですが、言葉にする勇気がなく、文字にしたためました」
一体なんだと、優吾は意を決して読み始めた。
【 口づけを 交わしたことは ありますが
そこから先は まだ見ぬ世界 】
頭の中で和歌を読む。
(お見事……って違うから! なんだって?)
まじまじと読み返していると、美月が頬を真っ赤にしながら頭を下げた。
「あの、そういう訳で、私は恋愛の経験は非常に浅いのです。ですからどうか、不慣れでもお許しください」
「いや、そんなことは……」
優吾は、あまりの変化球についていけず、言葉に詰まった。
こんなふうに改めて言及されると、どうしていいものかと身構える。
決してうぬぼれる訳ではないが、優吾はこれまで女性に言い寄られる側にしかいなかった。
自分から告白したこともなければ、キスでさえ相手から積極的に求められ、そこに深い意味を感じたこともない。
だが美月には、心して接しなければ。
怖がらせないよう、大切に。
そう思っていると、美月が更に身を縮こめてうつむいた。
「すみません。重いですよね、私って。大人の恋愛が分からず、雨宮さんをがっかりさせてしまうと思います。ですが、私は雨宮さんに見放されたくないのです。今はまだ、女性としての魅力がない私に対してそんな気持ちにはならないかと思いますが、精いっぱい努力します。ですから、どうか……」
真剣に言葉を続ける美月がいじらしくなり、優吾はふっと頬を緩める。
右手でそっと美月の頬を包むと、優しく声をかけた。
「顔を上げて」
おずおずと視線を上げた美月の目は、今にも涙がこぼれ落ちそうなほど潤んでいる。
真っ赤に染まった頬の熱が、優吾の手のひらに伝わってきた。
「美月」
初めて名前を呼ぶと、美月はドキッとしたように目を見開く。
「は、はい」
「頭で考えるな。恋愛は心でするものだよ」
「……心で?」
「そう。なにも考えなくていい」
「あの、でも、やっぱり考えてしまって。どうしよう……。どうすればいいの?」
戸惑う美月に、優吾はゆっくりと顔を寄せてささやいた。
「じゃあ、なにも考えられなくしてやる」
「え……」
吐息が触れそうな距離で、優吾は美月を真っ直ぐ見つめて射貫く。
まるで視線を絡め取るように。
優吾は右手を美月の頬に添えたまま、左手で美月の身体をグッと抱き寄せた。
そのまま覆いかぶさるように、唇を熱く奪う。
美月の身体から力が抜けると、優吾は更に深く口づけた。
「んっ……」
美月のこぼす甘い吐息は、優吾の理性を一瞬で吹き飛ばす。
込み上げる熱い想いをぶつけるように、優吾は何度も美月に口づけた。
ようやく身体を起こすと、美月はトロンととろけきった瞳で、艶かしく頬を上気させている。
「こんなの、知らない……」
呟いた美月の色香に、優吾は口元を緩める。
「それなら覚えておいて。これが美月のファーストキスだ」
大人の男の色気を漂わせ、優吾は再び美月の唇を甘く熱く奪った。
温めた惣菜やスープを食べがら、優吾はチラリと美月の様子をうかがう。
いつにも増して真剣な表情でうつむいているのが気になった。
(なんだ? 話があるって)
そう考えてハッとする。
(まさか、お見合いの話が進んでいるとか?)
そうだ。
気持ちが通じたと浮かれていたが、美月は誕生日が過ぎたら親同士が決めた相手とお見合いすることになっていたはず。
(断らなかったのか? もしや、俺とのことは、そこまでじゃなかったとか?)
考え始めたら止まらない。
(頼むから、違うと言ってくれ)
祈るような気持ちで食事を終えると、ソファに並んで座った美月が、思い切ったように一枚の紙を差し出した。
「雨宮さん、あの、こちらを」
「なに、これ?」
ドキドキしながら受け取る。
「どうしてもお伝えしたいことがあるのですが、言葉にする勇気がなく、文字にしたためました」
一体なんだと、優吾は意を決して読み始めた。
【 口づけを 交わしたことは ありますが
そこから先は まだ見ぬ世界 】
頭の中で和歌を読む。
(お見事……って違うから! なんだって?)
まじまじと読み返していると、美月が頬を真っ赤にしながら頭を下げた。
「あの、そういう訳で、私は恋愛の経験は非常に浅いのです。ですからどうか、不慣れでもお許しください」
「いや、そんなことは……」
優吾は、あまりの変化球についていけず、言葉に詰まった。
こんなふうに改めて言及されると、どうしていいものかと身構える。
決してうぬぼれる訳ではないが、優吾はこれまで女性に言い寄られる側にしかいなかった。
自分から告白したこともなければ、キスでさえ相手から積極的に求められ、そこに深い意味を感じたこともない。
だが美月には、心して接しなければ。
怖がらせないよう、大切に。
そう思っていると、美月が更に身を縮こめてうつむいた。
「すみません。重いですよね、私って。大人の恋愛が分からず、雨宮さんをがっかりさせてしまうと思います。ですが、私は雨宮さんに見放されたくないのです。今はまだ、女性としての魅力がない私に対してそんな気持ちにはならないかと思いますが、精いっぱい努力します。ですから、どうか……」
真剣に言葉を続ける美月がいじらしくなり、優吾はふっと頬を緩める。
右手でそっと美月の頬を包むと、優しく声をかけた。
「顔を上げて」
おずおずと視線を上げた美月の目は、今にも涙がこぼれ落ちそうなほど潤んでいる。
真っ赤に染まった頬の熱が、優吾の手のひらに伝わってきた。
「美月」
初めて名前を呼ぶと、美月はドキッとしたように目を見開く。
「は、はい」
「頭で考えるな。恋愛は心でするものだよ」
「……心で?」
「そう。なにも考えなくていい」
「あの、でも、やっぱり考えてしまって。どうしよう……。どうすればいいの?」
戸惑う美月に、優吾はゆっくりと顔を寄せてささやいた。
「じゃあ、なにも考えられなくしてやる」
「え……」
吐息が触れそうな距離で、優吾は美月を真っ直ぐ見つめて射貫く。
まるで視線を絡め取るように。
優吾は右手を美月の頬に添えたまま、左手で美月の身体をグッと抱き寄せた。
そのまま覆いかぶさるように、唇を熱く奪う。
美月の身体から力が抜けると、優吾は更に深く口づけた。
「んっ……」
美月のこぼす甘い吐息は、優吾の理性を一瞬で吹き飛ばす。
込み上げる熱い想いをぶつけるように、優吾は何度も美月に口づけた。
ようやく身体を起こすと、美月はトロンととろけきった瞳で、艶かしく頬を上気させている。
「こんなの、知らない……」
呟いた美月の色香に、優吾は口元を緩める。
「それなら覚えておいて。これが美月のファーストキスだ」
大人の男の色気を漂わせ、優吾は再び美月の唇を甘く熱く奪った。