お抹茶王子にキョーミないですっ!
「行こう?」と手を差し伸べられて慌てて「や、でも」と答える。

 だってここはマヨとの待ち合わせ場所なんだもん。まあいつも遅刻ギリギリまで来ないけど。


「遅刻するよ?」

「でもマヨが……」

「ああ根岸さんね。できればスズちゃんと二人きりで話したいんだ」


「え」とその顔を見ると、さわ、と春の風が先輩の髪を柔らかに揺らした。


「行こう。根岸さんには僕からもあとであやまるよ」

「え……と」

「ね」

「……は、はい」


 なんだ……。
 なんだよこの、

 少女マンガ的展開は……!
(よく知らないけどねっ)

 マズイ。逃げたい。
 だってこんなの、絶対に厄介なことに巻き込まれるよね!?


「ていうかスズちゃん、わかってる? 僕を」

 高い身長から見下ろすそれは心配そうな眼差しだった。


「あ……はい、ええと。昨日、母から聞きました」


 そわそわしつつもならんで歩きながら答える。周りの視線が痛い。ヒソヒソ声が気になる。マズイ。マズイよね、こんなの。


 だってわたし、ちがうのにいいいい! 全然、そんな、『お抹茶王子』狙いじゃないしっ! どちらかといえば関わりたくないくらいなのにいっ!


「へえ。思い出してくれたのにそんな他人行儀なんだ」

「へっ」


 思わぬ発言にその顔を見上げる。すると先輩もこちらを見下ろしていた。優しく微笑む整った目、鼻、口。やっぱキレイだなあ、って言ってる場合じゃないや。


「『お菊ちゃん』って、呼んでくれないの?」

 バカですか!

「よっ、呼べるわけないですよ!」


 慌ててぶんぶんと顔を振り乱すと「はは」と笑われた。

 もう勘弁してください。これ以上わたしの平穏な中学生活をおびやかさないでください。

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