桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
2 問われた答え
2 問われた答え
『アリス』
『チェシャ猫、どうしたの? 怪我したの? どうして、そんな悲しそうな顔しているの?』
幼い、私とチェシャ猫。これは昔の記憶。夢の中。
ここは城の薔薇園の出口。緑と赤と、ピンクと赤。薔薇は甘い香りを漂わせ、幼い私達の鼻を擽る。天気も良くて、風も私達を包むように暖かい。それだけで笑顔になれるのに、目の前にいるチェシャ猫は悲しそうな顔をしている。
『悲しいことがあったの? チェシャ猫が悲しいと、私も悲しいよ』
チェシャ猫の手を両手で包むと、チェシャ猫は更に泣きそうな顔をする。
『アリス、僕には呪いがかかっていて、いずれ世界が――の時、――きゃいけないんだ。だから、アリスは――』
チェシャ猫の言葉に、幼い私は目を見開いた。
信じたくなくて。受け入れたくなくて。その真実はとても悲しいものだったから。
悲しさに耐えられずに泣く私を見て、チェシャ猫も目に涙を溜める。
『やだっ! やだよ、チェシャ猫』
記憶に靄がかかって、思い出せない。チェシャ猫は何て言ったの? 私はどうして泣いて、何を嫌がったの? 教えてチェシャ猫。
『僕は――たいよ』
とうとう泣いてしまったチェシャ猫は、何かを叫ぶ。
それは初めて聞いた、チェシャ猫の素直な気持ち。けれど靄が記憶を覆い隠して、真実を思い出せないまま、記憶は遠退いていく。思い出さなきゃならないのに。
手を伸ばそうとすると、後ろから腕を捕まれる。振り返ると、いつものチェシャ猫がいた。
「チェシャ、猫?」
私がチェシャ猫の名前を呼ぶと、チェシャ猫は優しく笑う。いつもの優しい笑顔。 私の大好きな、チェシャ猫の笑顔。
「笑っていて、アリス」
そっか、チェシャ猫がそう言うなら笑ってなきゃ。悲しい顔していたらダメだよね。
私もチェシャ猫が悲しい顔していたら悲しいもん。私が笑ってチェシャ猫が笑ってくれるなら、私はずっと笑顔でいるよ。
「うん!」
私が頷くと、チェシャ猫は優しく微笑む。安心したのか、私を掴んでいた手がすっと放されていく。それが酷く寂しく思えて、チェシャ猫を掴もうと手を伸ばす。けれど、届かない。身体が思うように前に進まなくて、触ることが出来ない。
もがいている間に、チェシャ猫はどんどん姿を消していく。
「待って、チェシャ猫」
怖い。
「や、だっ!」
「アリス!」
目をギュッと瞑ると同時、引き寄せられた身体。重力がなくなり、体がふわりと宙に浮く。ふわふわとした世界の中で、私の身体を引き寄せたのは私よりも小さな身体。後ろから抱き締められている。その小さな抱擁は、私の恐怖を包んでくれるには十分だった。
「夢魔?」
「何が嫌なの、何が怖いの。これは夢だよ、夢だから」
回された腕は緩むことはなくて。
「怖い夢を見ていた私を、夢魔が助けてくれたの? ありがとう」
不機嫌なのか夢魔からは返事が帰ってこないけれど、その腕の強さにほっとした。でもやがてその腕の感触も薄れていく。夢から、覚める感覚。
「また、助けるから」
その言葉を最後に、意識はふわりと浮上する。きっと目を覚ましてそこにいてくれるのは、チェシャ猫。の、はずなのだけど。
一度開けた目を、ごしごしと擦る。可笑しいな。私寝ぼけているのかも。
身体を動かすと、素肌にチクチクとあたるものがある。この、チクチク感。幾度となく城の外でお昼寝していた私は分かる。このチクチクは草花だ。懐かしいけど、今このチクチク感を味わうのはおかしい。何よりおかしいのは、私の目の前で柔らかそうな金髪を持った少年が寝ているこの状況。
「ん」
「ひゃー!」
少年の目が開かれたと同時叫んだ私。それにびっくりした少年は、同じように叫んだ。
「ごごご、ごめんなさい!」
起き上がって、とりあえず頭を下げる。何が起きたのかちっとも分からないのだけど、びっくりさせてしまったことは確かだ。
「いや、いいよ。それより君は誰なのかな?」
頭を上げた私は、ぽかんとする金髪の少年を見つめる。丸みのある髪型に、柔らかそうな金髪の髪。くるんとした丸い目が、男の子なのに可愛い。
「私はあの、アリスって言います」
「アリ、ス?」
まだ声変わりしてない声が、私の名前を呼ぶ。少年が微かに動くと、金属の擦れる音がした。音の発生源は、腰に下げられた剣。
『アリス』
『チェシャ猫、どうしたの? 怪我したの? どうして、そんな悲しそうな顔しているの?』
幼い、私とチェシャ猫。これは昔の記憶。夢の中。
ここは城の薔薇園の出口。緑と赤と、ピンクと赤。薔薇は甘い香りを漂わせ、幼い私達の鼻を擽る。天気も良くて、風も私達を包むように暖かい。それだけで笑顔になれるのに、目の前にいるチェシャ猫は悲しそうな顔をしている。
『悲しいことがあったの? チェシャ猫が悲しいと、私も悲しいよ』
チェシャ猫の手を両手で包むと、チェシャ猫は更に泣きそうな顔をする。
『アリス、僕には呪いがかかっていて、いずれ世界が――の時、――きゃいけないんだ。だから、アリスは――』
チェシャ猫の言葉に、幼い私は目を見開いた。
信じたくなくて。受け入れたくなくて。その真実はとても悲しいものだったから。
悲しさに耐えられずに泣く私を見て、チェシャ猫も目に涙を溜める。
『やだっ! やだよ、チェシャ猫』
記憶に靄がかかって、思い出せない。チェシャ猫は何て言ったの? 私はどうして泣いて、何を嫌がったの? 教えてチェシャ猫。
『僕は――たいよ』
とうとう泣いてしまったチェシャ猫は、何かを叫ぶ。
それは初めて聞いた、チェシャ猫の素直な気持ち。けれど靄が記憶を覆い隠して、真実を思い出せないまま、記憶は遠退いていく。思い出さなきゃならないのに。
手を伸ばそうとすると、後ろから腕を捕まれる。振り返ると、いつものチェシャ猫がいた。
「チェシャ、猫?」
私がチェシャ猫の名前を呼ぶと、チェシャ猫は優しく笑う。いつもの優しい笑顔。 私の大好きな、チェシャ猫の笑顔。
「笑っていて、アリス」
そっか、チェシャ猫がそう言うなら笑ってなきゃ。悲しい顔していたらダメだよね。
私もチェシャ猫が悲しい顔していたら悲しいもん。私が笑ってチェシャ猫が笑ってくれるなら、私はずっと笑顔でいるよ。
「うん!」
私が頷くと、チェシャ猫は優しく微笑む。安心したのか、私を掴んでいた手がすっと放されていく。それが酷く寂しく思えて、チェシャ猫を掴もうと手を伸ばす。けれど、届かない。身体が思うように前に進まなくて、触ることが出来ない。
もがいている間に、チェシャ猫はどんどん姿を消していく。
「待って、チェシャ猫」
怖い。
「や、だっ!」
「アリス!」
目をギュッと瞑ると同時、引き寄せられた身体。重力がなくなり、体がふわりと宙に浮く。ふわふわとした世界の中で、私の身体を引き寄せたのは私よりも小さな身体。後ろから抱き締められている。その小さな抱擁は、私の恐怖を包んでくれるには十分だった。
「夢魔?」
「何が嫌なの、何が怖いの。これは夢だよ、夢だから」
回された腕は緩むことはなくて。
「怖い夢を見ていた私を、夢魔が助けてくれたの? ありがとう」
不機嫌なのか夢魔からは返事が帰ってこないけれど、その腕の強さにほっとした。でもやがてその腕の感触も薄れていく。夢から、覚める感覚。
「また、助けるから」
その言葉を最後に、意識はふわりと浮上する。きっと目を覚ましてそこにいてくれるのは、チェシャ猫。の、はずなのだけど。
一度開けた目を、ごしごしと擦る。可笑しいな。私寝ぼけているのかも。
身体を動かすと、素肌にチクチクとあたるものがある。この、チクチク感。幾度となく城の外でお昼寝していた私は分かる。このチクチクは草花だ。懐かしいけど、今このチクチク感を味わうのはおかしい。何よりおかしいのは、私の目の前で柔らかそうな金髪を持った少年が寝ているこの状況。
「ん」
「ひゃー!」
少年の目が開かれたと同時叫んだ私。それにびっくりした少年は、同じように叫んだ。
「ごごご、ごめんなさい!」
起き上がって、とりあえず頭を下げる。何が起きたのかちっとも分からないのだけど、びっくりさせてしまったことは確かだ。
「いや、いいよ。それより君は誰なのかな?」
頭を上げた私は、ぽかんとする金髪の少年を見つめる。丸みのある髪型に、柔らかそうな金髪の髪。くるんとした丸い目が、男の子なのに可愛い。
「私はあの、アリスって言います」
「アリ、ス?」
まだ声変わりしてない声が、私の名前を呼ぶ。少年が微かに動くと、金属の擦れる音がした。音の発生源は、腰に下げられた剣。