桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
最後の望みをかけて、チェシャ猫を見上げた。私を撫でている手がゆっくりと頬に来て私の涙を拭った。観念したのか、チェシャ猫は寂しげに笑う。
「僕の呪いはねアリス、家に帰ることが出来ない呪いがかかっているんだよ。決して家に戻ることが出来ない。公爵夫人はもういないから」
「公爵夫人?」
「そう、公爵夫人。千四百年前に魔女にその存在を隠された、チェシャ猫の飼い主」
「そんな、だからチェシャ猫は家がないって答えたの? だからずっと一人だったの?」
「僕は公爵夫人を知らないけど、一代目のチェシャ猫は知っている。引き継がれた想いが悲しみを連れてくるけど、もう悲しくないよ」
チェシャ猫は悲しくないって言うけど、心の悲鳴は消せてなんかない。寂しいって叫んでいる。
「でも、悲しそうな笑顔をしているよ」
「君がいるなら、良いんだ。アリス、君が笑っているなら」
チェシャ猫が傘を離す。傘ははねて浴槽へと落ちた。その後は分からない。チェシャ猫に抱き締められたから。
チェシャ猫にこんな風に抱き締められるのは初めてで。心臓が止まるかと思ったけど、心臓の音は激しくなっていく。
悲しい、寂しい、怖い。
チェシャ猫の感情が言葉よりも鮮明に伝わってきて、思わず固まってしまった。動くことが出来ない。そのまま抱き締められていると、チェシャ猫はそっと身体を離して私を見つめる。至近距離にあるチェシャ猫の顔は笑っていた。いつもの優しい笑顔。私の大好きな、チェシャ猫の笑顔。
「笑っていて、アリス」
夢と、同じ。夢と同じ表情。台詞。夢が現実になって、私は少し固まる。私、夢で何て答えたんだっけ。
「チェシャ猫がそう言うなら、チェシャ猫も笑ってなきゃ。悲しい顔をしていたらダメだよ。 私もチェシャ猫が悲しい顔していたら悲しいから。私が笑ってチェシャ猫が笑ってくれるなら、私はずっと笑顔でいたい」
私は夢で頷いた。だけどその後、チェシャ猫はどんどん遠くにいってしまって。もがいている間に、チェシャ猫はどんどん姿を消していった。ここで頷いたら、チェシャ猫は離れていってしまう気がする。
「チェシャ猫も一緒に笑ってなきゃダメ! でなきゃ私も笑わない!」
私が叫ぶと、チェシャ猫は目を丸くする。
我が儘なのは分かっているけど、夢みたいにチェシャ猫に消えてほしくない。ずっと一緒に笑っていてほしい。
「私が笑って、チェシャ猫が笑うならそれで良いの。でも私が笑うのは、楽しいって、嬉しいって思えるのは、チェシャ猫が同じように笑顔でいてくれるからだよ。だから、一緒にいて、一緒に笑って。一緒でなきゃ笑えないよ」
呆気にとられたのか、私の滅茶苦茶な言葉を理解出来なかったのかは分からないけど、チェシャ猫はポカンとしたまま固まってしまった。まさか反抗されるとは思ってなかったのかもしれない。
「ぷっ、流石アリスですね。頼もしいです」
突如お風呂場に響いた声に私は耳を疑う。ダイヤの城のお風呂を改めて見渡せば、豪華に飾られた宝石が柱についているし、二階もあってそこにも浴槽があるみたいだ。けれどどこにも姿は見当たらない。必死に目を凝らして、そして見つけた二階の手すりに座る人影。真っ白で長いウサギ耳。雪のような白いその少年は、紛れもない――
「白ウサギ!」
「アリス! 無事で良かったです!」
「ぼくもいるよー!」
白ウサギの背中から、ビルが顔を出す。白ウサギの館で、魔物と戦っていた白ウサギ達。その元気そうな笑顔につられて、頬が緩む。
「良かった、無事だったんだね!」
「はい。皆無事ですよ。アリスも無事で良か、うわあ!」
「僕の呪いはねアリス、家に帰ることが出来ない呪いがかかっているんだよ。決して家に戻ることが出来ない。公爵夫人はもういないから」
「公爵夫人?」
「そう、公爵夫人。千四百年前に魔女にその存在を隠された、チェシャ猫の飼い主」
「そんな、だからチェシャ猫は家がないって答えたの? だからずっと一人だったの?」
「僕は公爵夫人を知らないけど、一代目のチェシャ猫は知っている。引き継がれた想いが悲しみを連れてくるけど、もう悲しくないよ」
チェシャ猫は悲しくないって言うけど、心の悲鳴は消せてなんかない。寂しいって叫んでいる。
「でも、悲しそうな笑顔をしているよ」
「君がいるなら、良いんだ。アリス、君が笑っているなら」
チェシャ猫が傘を離す。傘ははねて浴槽へと落ちた。その後は分からない。チェシャ猫に抱き締められたから。
チェシャ猫にこんな風に抱き締められるのは初めてで。心臓が止まるかと思ったけど、心臓の音は激しくなっていく。
悲しい、寂しい、怖い。
チェシャ猫の感情が言葉よりも鮮明に伝わってきて、思わず固まってしまった。動くことが出来ない。そのまま抱き締められていると、チェシャ猫はそっと身体を離して私を見つめる。至近距離にあるチェシャ猫の顔は笑っていた。いつもの優しい笑顔。私の大好きな、チェシャ猫の笑顔。
「笑っていて、アリス」
夢と、同じ。夢と同じ表情。台詞。夢が現実になって、私は少し固まる。私、夢で何て答えたんだっけ。
「チェシャ猫がそう言うなら、チェシャ猫も笑ってなきゃ。悲しい顔をしていたらダメだよ。 私もチェシャ猫が悲しい顔していたら悲しいから。私が笑ってチェシャ猫が笑ってくれるなら、私はずっと笑顔でいたい」
私は夢で頷いた。だけどその後、チェシャ猫はどんどん遠くにいってしまって。もがいている間に、チェシャ猫はどんどん姿を消していった。ここで頷いたら、チェシャ猫は離れていってしまう気がする。
「チェシャ猫も一緒に笑ってなきゃダメ! でなきゃ私も笑わない!」
私が叫ぶと、チェシャ猫は目を丸くする。
我が儘なのは分かっているけど、夢みたいにチェシャ猫に消えてほしくない。ずっと一緒に笑っていてほしい。
「私が笑って、チェシャ猫が笑うならそれで良いの。でも私が笑うのは、楽しいって、嬉しいって思えるのは、チェシャ猫が同じように笑顔でいてくれるからだよ。だから、一緒にいて、一緒に笑って。一緒でなきゃ笑えないよ」
呆気にとられたのか、私の滅茶苦茶な言葉を理解出来なかったのかは分からないけど、チェシャ猫はポカンとしたまま固まってしまった。まさか反抗されるとは思ってなかったのかもしれない。
「ぷっ、流石アリスですね。頼もしいです」
突如お風呂場に響いた声に私は耳を疑う。ダイヤの城のお風呂を改めて見渡せば、豪華に飾られた宝石が柱についているし、二階もあってそこにも浴槽があるみたいだ。けれどどこにも姿は見当たらない。必死に目を凝らして、そして見つけた二階の手すりに座る人影。真っ白で長いウサギ耳。雪のような白いその少年は、紛れもない――
「白ウサギ!」
「アリス! 無事で良かったです!」
「ぼくもいるよー!」
白ウサギの背中から、ビルが顔を出す。白ウサギの館で、魔物と戦っていた白ウサギ達。その元気そうな笑顔につられて、頬が緩む。
「良かった、無事だったんだね!」
「はい。皆無事ですよ。アリスも無事で良か、うわあ!」