桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
遠く離れていく小さな背中を私は追いかけていた。覚束ない足で、ひたすらチェシャ猫に追い付くことを願って。けれど声も思いも届かないまま、それきりチェシャ猫に会えなくなった。
もっともっと一緒にいたかった。寂しさに、悲しさに耐えきれず忘れるしかないくらい、私はチェシャ猫が。ずっと一緒にいたいと思うくらい私は。
無意識に手を伸ばして探る。すると、何かを掴む。それは温かなもので。一気に視界に飛び込んできたのは鮮やかな赤色。求めた体温が私を包む。
強く、強く、強く。その体温の持ち主は私を抱き締めていく。私も悲しみを深く刻んだその身体を強く、強く抱き締めた。絶対に離さないように。もう今度は離れなくていいように。それだけで、満たされていくような気がした。
「チェシャ猫……」
離したくない。その思いを抱く理由も、病気かと疑うくらいチェシャ猫にドキドキする答えも、私はもう知ってしまった。
――私はチェシャ猫が好きなんだ。
「コホン、帰ったようだな」
「わ!」
思わずチェシャ猫を引き剥がす。周囲を見渡すと、王座の間のようだった。ダイヤの王子の隣には時計屋さん、ディーとダムがいる。時計屋さんは無表情だけど、ダイヤの王子は少し気まずそうだ。ディーとダムはニヤニヤと笑っていて、帰ってきた安堵よりも、恥ずかしさが勝る。
「成果はあったか?」
成果。問われるような成果は、あったのかな。
呪いがかかった始まりの時間。呪いを解く鏡の在処。これらの情報はきっと、ダイヤの王子が聞きたい内容ではない気がする。
なら、ダイヤの王子は何を私に聞きたいのか。
「女王様の元に戻ります」
「ほぉ、アリスは確か、女王の元から逃げてきたのではなかったのか? せっかく命からがら逃げてみせたのに、戻る、と。呪いを解くのを諦めたと?」
「諦めない為に戻ります。私はきっと、女王様ときちんと話し合わなきゃいけなかった。女王様が何に苦しんでいるのか、私は知らない。対立してしまった今、仲直り出来るか分からない。分かり合えないかもしれないけれど、きっと呪いは、女王様の協力なしには、解けないと思うから」
女王様が鏡を持っていた事実への衝撃で見逃していたけれど、女王様には葛藤があった。
だから、決めた。女王様の元に戻る。私は、女王様と話さなきゃならない。
「成果は、あったようだな」
ダイヤの王子は勢いよく立ち上がると、マントをはらう。
「白ウサギ、出番だ」
「は、はいー! ただいま参ります!」
王座の間への扉が開き、白ウサギとビルが入ってくる。赤いカーペットの、何もないところでこけそうになった白ウサギを、ビルが服を引っ張って止める。
「アリスを女王の元に連れていってやれ」
「はい。はい? どういうことですか?」
最初は肯定の返事をした白ウサギが、耳を疑うというように白いウサギ耳をピクピクと揺らす。礼をしようとした白ウサギが、変な姿勢で止まったまま、驚いた瞳でダイヤの王子を見つめ、先程のダイヤの王子と違って、純粋に分からないと言いたげな瞳が、こちらに向けられる。でも、それはすぐに驚きに変わった。
「まさか。鏡を見つけたんですね」
「うん。鏡は、女王様の城にある」
「鏡が城にある、という予想は、しなかったわけではないです。でも、国を守ろうとする女王の城に鏡がある可能性は低いと、思っていました」
「とはいえ、ちゃっかり偵察を仕込んでいるじゃないですかー」
「はは、そうなんですけど。って、付いてきたんですか、海ガメ!」
もっともっと一緒にいたかった。寂しさに、悲しさに耐えきれず忘れるしかないくらい、私はチェシャ猫が。ずっと一緒にいたいと思うくらい私は。
無意識に手を伸ばして探る。すると、何かを掴む。それは温かなもので。一気に視界に飛び込んできたのは鮮やかな赤色。求めた体温が私を包む。
強く、強く、強く。その体温の持ち主は私を抱き締めていく。私も悲しみを深く刻んだその身体を強く、強く抱き締めた。絶対に離さないように。もう今度は離れなくていいように。それだけで、満たされていくような気がした。
「チェシャ猫……」
離したくない。その思いを抱く理由も、病気かと疑うくらいチェシャ猫にドキドキする答えも、私はもう知ってしまった。
――私はチェシャ猫が好きなんだ。
「コホン、帰ったようだな」
「わ!」
思わずチェシャ猫を引き剥がす。周囲を見渡すと、王座の間のようだった。ダイヤの王子の隣には時計屋さん、ディーとダムがいる。時計屋さんは無表情だけど、ダイヤの王子は少し気まずそうだ。ディーとダムはニヤニヤと笑っていて、帰ってきた安堵よりも、恥ずかしさが勝る。
「成果はあったか?」
成果。問われるような成果は、あったのかな。
呪いがかかった始まりの時間。呪いを解く鏡の在処。これらの情報はきっと、ダイヤの王子が聞きたい内容ではない気がする。
なら、ダイヤの王子は何を私に聞きたいのか。
「女王様の元に戻ります」
「ほぉ、アリスは確か、女王の元から逃げてきたのではなかったのか? せっかく命からがら逃げてみせたのに、戻る、と。呪いを解くのを諦めたと?」
「諦めない為に戻ります。私はきっと、女王様ときちんと話し合わなきゃいけなかった。女王様が何に苦しんでいるのか、私は知らない。対立してしまった今、仲直り出来るか分からない。分かり合えないかもしれないけれど、きっと呪いは、女王様の協力なしには、解けないと思うから」
女王様が鏡を持っていた事実への衝撃で見逃していたけれど、女王様には葛藤があった。
だから、決めた。女王様の元に戻る。私は、女王様と話さなきゃならない。
「成果は、あったようだな」
ダイヤの王子は勢いよく立ち上がると、マントをはらう。
「白ウサギ、出番だ」
「は、はいー! ただいま参ります!」
王座の間への扉が開き、白ウサギとビルが入ってくる。赤いカーペットの、何もないところでこけそうになった白ウサギを、ビルが服を引っ張って止める。
「アリスを女王の元に連れていってやれ」
「はい。はい? どういうことですか?」
最初は肯定の返事をした白ウサギが、耳を疑うというように白いウサギ耳をピクピクと揺らす。礼をしようとした白ウサギが、変な姿勢で止まったまま、驚いた瞳でダイヤの王子を見つめ、先程のダイヤの王子と違って、純粋に分からないと言いたげな瞳が、こちらに向けられる。でも、それはすぐに驚きに変わった。
「まさか。鏡を見つけたんですね」
「うん。鏡は、女王様の城にある」
「鏡が城にある、という予想は、しなかったわけではないです。でも、国を守ろうとする女王の城に鏡がある可能性は低いと、思っていました」
「とはいえ、ちゃっかり偵察を仕込んでいるじゃないですかー」
「はは、そうなんですけど。って、付いてきたんですか、海ガメ!」