桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
 白ウサギを迎えるときに開いたままだった扉から、海ガメが歩いてくる。でも、その後ろにいてほしかった二人の姿が見当たらない。でもそんな私の落胆などおかまいなしに、ダイヤの王子は話を進めていく。
「ハンプティ、控えているな」
「はい! お兄様! ハンプティ、ここに控えております」
 ダイヤの王子の命令に、嬉しそうに返事したハンプティが、王座の間のカーテンの裏から姿を現す。耳を疑うその呼び方に、私だけが固まった。
「お兄様? ねぇ、ハンプティ、お兄様って」
「二人は」
「兄弟さ」
「似てないけれどね」
「血も繋がっていないけれどね」
「二人供、いつからそこに!」
 背後に突然現れた双子に、私は驚きで暴れ回る心臓を落ち着かせようと胸に手を当てる。この双子、行動が予測不能だ。 
 何よりびっくりなのは、ダイヤの王子とハンプティが兄弟なことだけれど。ここに来て驚きの連続で、何だかへとへとになりそう。
「ダウンするのは呪いを解いてからにしてくださいねー。これからですからぁ、しっかりしてくださいー」
「へとへとになっても僕が背負ってあげるよ」
「二人とも、人の心を読んでいるよね」
 疲れきった私は海ガメとチェシャ猫の言葉に突っ込む気力もなく、項垂れる。
「お兄様、まず僕は何をすればいいですか!」
「あ、あぁ、それはだな」
「偉そうに言ったからには完璧に、率直に、解りやすく説明してくださいね、いえ、出来ますよね王子なら」
「プレッシャーをかけるな、時計屋」
 キラキラ、と期待のこもった眼差しで、お兄さんであるダイヤの王子を見つめるハンプティ。その様子から、ハンプティがダイヤの王子を尊敬しているのが分かった。ダイヤの王子はそのことにプレッシャーを感じている気がするけれど。
 時計屋さんはダイヤの王子を追い込むし、ディーとダムはナイフ投げをしている。
 ダイヤの王子、お腹を痛めたりしないかな。
「ごほん。王たる俺の策略はこうだ。女王を説得し、この国の権限を得る」
「この国の権限ってなんですか? 鏡を割るんじゃないの?」
「鏡を割るのは後回しだ。世界の崩壊は、ウサギの時計を止めることで止まる。世界の崩壊と我らにかかっている呪いは、別なのだ。まず、世界の崩壊を止めるのが先決。国の権限とは、女王が持つ、国を好きにする権限だ。詳細は省くが、その権限があれば、いっときだけ暗黒の魔女の目をそらせるかもしれん。いざ呪いを解くときに暗黒の魔女に邪魔をされては敵わんからな」
 ダイヤの王子が言っている意味が、言葉は理解が出来るけれど、なぜ国の権限が必要なのか。その権限が、なぜ暗黒の魔女の視線を逸らすことになるのか。理解出来るには程遠い説明だ。
 チェシャ猫も同じく疑問を抱いたのか、口を開く。
「でもその方法だと、結局どちらかのウサギの時計を止めて、ウサギを消さなければならないってことだよね。それはアリスの意志じゃないよ」
「無論、理解している。だから白ウサギと黒ウサギ、同時に呪いを解くのだ」
 同時に、時計を止める。
 それはどちらか一人ではなく、二人のウサギを選んだ私の答え。
 白ウサギとぱちりと目が合うと、白ウサギはふわりと微笑んだ。
「諦めないでくれてありがとうございます、アリス」
 そっと囁かれた白ウサギの言葉。そんな風に言われたら、どうしていいかわからない。少しだけ照れた私は、服の裾を握りしめて誤魔化す。
「ウサギの穴を使って、女王の元へ行け。そこの海ガメと名乗る虚偽報告の青年も、役に立つだろう」
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