桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「さようならなんてさせない。お願い。消えないで、黒ウサギ!」
 今度は私の持っていた懐中時計が光を放つ。
「これは魔法。十三代目アリスが命と引き換えに残した魔法!」 
 懐中時計の光が記憶を伝えてくる。お城にある、青と金で彩られたアリスさんの部屋。白いベッドの上で、黄金の魔女を前に懐中時計を抱き締めた。
『救えなかった。私はどちらも消してしまった。白ウサギを犠牲にして黒ウサギを選んだのに』
『白ウサギが消えれば黒ウサギも生きられないわ。彼は白ウサギの影から作りだした存在なのだから』
 十三代目アリスは涙を流し、抱き締めていた懐中時計を胸から離す。
『後悔はないの? 貴女の愛した黒ウサギは戻らない。助かるのは、次の黒ウサギなのよ』
『いいの。どうか、次で終わりに――』
 アリスさんが懐中時計にキスをする。懐中時計は淡い光を宿し、アリスさんはベッドの上に倒れた。
『次のアリスが黒ウサギを想い願った時、この魔法は貴方を救う。もう消えないで、黒ウサギ』
「アリ、ス」
 消えかかかっていた黒ウサギの身体が実体を取り戻す。呟かれた名前は、十三代目アリスさんの名前だ。彼の中の黒ウサギの記憶が、彼女の名前を呼んだ。
 私が握っている黒ウサギの手は消えることはなかった。なら、次は私が涙を拭う番。黒ウサギの頬を流れる涙を掬うと、私の頬を誰かが触る。
「貴女も泣いていますよ」
「白ウサギも泣いているよ?」
 二人が犠牲にならない未来が欲しかった。消えてほしくなくて君を探した。ずっと貴方を追いかけて、探し続けた。悲いことが沢山あった。寂しかった。愛しかった。会いたかった。追い付いても、貴方は消えるばかりだったけれど。
「アリス」
 振り返ると、皆がいた。ボロボロだけど無事だ。誰一人欠けてない。真っ先に視界に入った赤に、塞き止めていた感情が爆発する。せっかく白ウサギが涙を拭ってくれたのに、すぐに頬は拭えないほど涙で濡れる。
「頑張ったね」
 側にきてくれたチェシャ猫の腕の中に飛び込んで、十四人のアリスの想いを解放した。
長い長い冒険は終わったんだ。そうだよね、チェシャ猫。
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