桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
人の何倍もの大きな扉は手を添えると、扉はゆっくりと開いていく。中に足を踏み入れると、懐かしく感じた。奥には、女王様が私を待っていたかのように座っている。視線は真っ直ぐに私を見ていた。
「女王様、私は後悔していない。二人のウサギを選んだことも、女王様とぶつかったことも。誰か一人が犠牲にならない為に、って思って今まで旅を続けたけど、 きっと私が見えてないところで、犠牲や予想が付かない、大変なことがあったと思う。言うこと聞けなくてごめんね、 裏切るようなことをしてごめんなさい」
広い女王様の間に、たった二人。チェシャ猫はいない。
女王様はゆっくりと瞬きをする。
「そうよ。誰か一人を救えば誰かが犠牲になる。これまで何をしたって絶望が付きまとってきた。そして今代も、行き着く先が絶望だけだと思っていたわ。けれどアリス、アンタは絶望なんて跳ね返して見せた」
女王様は王座の椅子から立つと、装飾だと思っていたハートが動き出す。ハートはけたたましい音を立てて二つに割れると、秘密の入り口が現れる。
「来なさい。アンタが望むものがこの先にあるわ」
ハートの入り口をくぐり抜け、女王様の後に続き奥へと進む。風通りが髪をふわりと空中にあげる。地下へ進むたび、ひんやりとした空気が肌を掠め、自ら冬へ向かっていくような不思議な感覚がした。
城に住んでいる間に探索は散々したはずだけれど、こんな秘密の地下があるなんて。
この先に何があるのか、チェシャ猫はどこにいるのか、問いかけたいことは沢山ある。
女王様は何も言わない。私も黙って後を付いていく。その後ろ姿に、艶やかな金色の髪にはっとした。
照れた顔を隠す艶やかな金色の髪。 祝福を奏でるヴァイオリンの旋律。思わず目が輝いてしまう、宝石のように輝くシャンデリア。赤い絨毯がひかれた階段。
私の誕生日パーティーで隣を歩いた女王様は、確かに私を大切にしてくれていた。
「ここよ」
氷で覆われた部屋は、神様という存在に祈りを捧げる教会のようだった。奉られてある女性像はどことなく女王様に似ていて、その前に棺を思わせる教壇がある。
ここにくるのは二度目だ。正面から入ると、印象が違って見える。でも、大きな鏡が中央に置かれているのは変わっていない。女王様の髪のような金色に輝く装飾。宝石のように輝く氷の中でも、一つ佇むその鏡は何よりも光を放っていた。
不思議の国の秘密の地下にある、異様なほど美しい鏡。この鏡こそ、私達が求めていたものであると、わからないほど鈍感じゃない。
「呪いを解く鏡よ。この鏡を割れば、不思議の国の呪いが解ける。けれど」
「大丈夫だよ」
何百年と一人で背負ってきた罪。それこそが女王様の呪い。
「チェシャ猫がこの先にいるんだよね?」
鏡を割った先にチェシャ猫がいる確信があった。チェシャ猫の存在は消えていない。
「ええ、チェシャ猫は不思議の国に留まれない呪いをかけられているわ。役目を終えた今、その呪いで彼は不思議の国から姿を消したの」
「なら、迎えにいかなきゃ。チェシャ猫は泣き虫な私の手を引いてくれた。沢山守ってくれた。それだけじゃない。私はチェシャ猫を」
好き。その言葉は涙となって溢れた。
そうだ、流れた涙は、いつもチェシャ猫が拭ってくれていた。私の自分勝手な望みを、きちんと向き合ってついてきてくれた。何かしてくれたから好きなのかと言われてしまえば否定はきっと出来ないけれど、そんなチェシャ猫の優しさを守りたいと思う。くれた分だけ返したいと思う。
「女王様、私は後悔していない。二人のウサギを選んだことも、女王様とぶつかったことも。誰か一人が犠牲にならない為に、って思って今まで旅を続けたけど、 きっと私が見えてないところで、犠牲や予想が付かない、大変なことがあったと思う。言うこと聞けなくてごめんね、 裏切るようなことをしてごめんなさい」
広い女王様の間に、たった二人。チェシャ猫はいない。
女王様はゆっくりと瞬きをする。
「そうよ。誰か一人を救えば誰かが犠牲になる。これまで何をしたって絶望が付きまとってきた。そして今代も、行き着く先が絶望だけだと思っていたわ。けれどアリス、アンタは絶望なんて跳ね返して見せた」
女王様は王座の椅子から立つと、装飾だと思っていたハートが動き出す。ハートはけたたましい音を立てて二つに割れると、秘密の入り口が現れる。
「来なさい。アンタが望むものがこの先にあるわ」
ハートの入り口をくぐり抜け、女王様の後に続き奥へと進む。風通りが髪をふわりと空中にあげる。地下へ進むたび、ひんやりとした空気が肌を掠め、自ら冬へ向かっていくような不思議な感覚がした。
城に住んでいる間に探索は散々したはずだけれど、こんな秘密の地下があるなんて。
この先に何があるのか、チェシャ猫はどこにいるのか、問いかけたいことは沢山ある。
女王様は何も言わない。私も黙って後を付いていく。その後ろ姿に、艶やかな金色の髪にはっとした。
照れた顔を隠す艶やかな金色の髪。 祝福を奏でるヴァイオリンの旋律。思わず目が輝いてしまう、宝石のように輝くシャンデリア。赤い絨毯がひかれた階段。
私の誕生日パーティーで隣を歩いた女王様は、確かに私を大切にしてくれていた。
「ここよ」
氷で覆われた部屋は、神様という存在に祈りを捧げる教会のようだった。奉られてある女性像はどことなく女王様に似ていて、その前に棺を思わせる教壇がある。
ここにくるのは二度目だ。正面から入ると、印象が違って見える。でも、大きな鏡が中央に置かれているのは変わっていない。女王様の髪のような金色に輝く装飾。宝石のように輝く氷の中でも、一つ佇むその鏡は何よりも光を放っていた。
不思議の国の秘密の地下にある、異様なほど美しい鏡。この鏡こそ、私達が求めていたものであると、わからないほど鈍感じゃない。
「呪いを解く鏡よ。この鏡を割れば、不思議の国の呪いが解ける。けれど」
「大丈夫だよ」
何百年と一人で背負ってきた罪。それこそが女王様の呪い。
「チェシャ猫がこの先にいるんだよね?」
鏡を割った先にチェシャ猫がいる確信があった。チェシャ猫の存在は消えていない。
「ええ、チェシャ猫は不思議の国に留まれない呪いをかけられているわ。役目を終えた今、その呪いで彼は不思議の国から姿を消したの」
「なら、迎えにいかなきゃ。チェシャ猫は泣き虫な私の手を引いてくれた。沢山守ってくれた。それだけじゃない。私はチェシャ猫を」
好き。その言葉は涙となって溢れた。
そうだ、流れた涙は、いつもチェシャ猫が拭ってくれていた。私の自分勝手な望みを、きちんと向き合ってついてきてくれた。何かしてくれたから好きなのかと言われてしまえば否定はきっと出来ないけれど、そんなチェシャ猫の優しさを守りたいと思う。くれた分だけ返したいと思う。