桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
ユウリの瞳から、涙が溢れる。その途端、ずっと我慢していたのか顔がぐしゃりと歪み、ユウリは年相応に泣き始めた。
レオナルド警官が、鍵を銃で壊し、ユウリを中から助け出す。牢から出てもまだ泣きじゃくるユウリを思いっきり抱き締めた。
「大丈夫だよ、もう一人じゃない。寂しくないよ。もう大丈夫だから」
この言葉を、夢魔にもかけてあげたらどんなに良かっただろう。
ユウリと夢魔が重なって、ふとそんなことを思ってしまう。
鏡の中で閉じ込められて生きていた夢魔。私が一人ぼっちの寂しさに気付いても、彼は寂しくないと言った。寂しさを閉じ込めて、誰にもすがることをしなかった夢魔。レオナルド警官とスペードのエースが別人のように、ユウリと夢魔も別人だ。
ユウリを救えたとしても、ユウリに一人じゃないと伝えたとしても、夢魔には届かない。
「帰ってきたぞ!」
キリマ家の館から出た私を迎えたのは、ジェームズお兄様の一声だった。敷地の外ではジェームズお兄様とハリーお兄様、ロリーナお姉様の三人が私の帰りを待っていてくれたようだった。
穏やかで上品なロリーナお姉様が小走りでこちらに来たかと思うと、私をぎゅっと抱き締めた。ロリーナお姉様から朝霧のローズの香りがふわりと香る。
「心配したのよ。こんなに埃だらけになってしまって。貴女が無事で良かったわ」
「無事で何よりだが、そうか、服は、無事とは言えないな。お父様がご覧になったら何と仰るか」
明らかに落胆しているハリーお兄様だったけれど、頭を優しく撫でてくれた。ジェームズお兄様は面白そうにカメラをこちらに向けている。
「アリス」
振り返ると、ユウリが立っていた。これから病院へ搬送されるのだろう、救急車に乗る前に来てくれたようだった。付き添いにレオナルド警官が後ろをついている。
通報により突撃した警官が叔父様を捕らえ、ベン警官が牢獄の扉を開けてくれた後、ユウリは部屋に軟禁されていた使用人の子供達と再会した。彼らもユウリと同じように傷だらけで、中にはもっと酷い傷を負った子もいたけれど、幸いなことに全員命には別状がないようだった。
「ありがとう、アリス。あのさ、傷が治ったら」
そこで言葉は止まり、ユウリは無言になってしまう。私は最初にユウリに出会った時を思いだし、笑顔で返す。ユウリが言いたいことはなんとなく分かった。
「うん、約束したもんね。一緒に空の下で遊ぼう。お茶会で美味しいクッキー食べようね」
「うん」
ユウリは嬉しそうに頷くと、レオナルド警官に連れられて救急車で搬送された。少しだけ肩の荷が降りたのか、自然と深く息を吐く。
きっと、ユウリはこれから頑張らなきゃいけないことが沢山ある。リハビリや取り調べが終わっても、新しい生活、当主としての勉強、私が想像出来ないくらい沢山。
そして、鏡が割れて、呪いが解けているだろう夢魔にも。
「一件落着、だな。いやー、俺もお手柄お手柄」
「ジェームズ、お前はこの後じっくり説教の時間だ」
「おいおいハリーお兄様、冗談が下手くそだぜ」
ジェームズお兄様はハリーお兄様に連行され、館へ引きずられていく。ロリーナお姉様は私の肩へ手を回し、いきましょう、と妖精が持つような綺麗な声で囁いた。
その瞬間、迷いの森での幻影が頭を過る。
生い茂る木々が空を隠す、薄暗い森の中で見た白昼夢。
『帰ってきて、アリス』
温かな日差しと木漏れ日の下でそう言ったのは、ロリーナお姉様だ。帰らなきゃ、と思わず声が漏れる。
「えぇ、帰りましょう」
レオナルド警官が、鍵を銃で壊し、ユウリを中から助け出す。牢から出てもまだ泣きじゃくるユウリを思いっきり抱き締めた。
「大丈夫だよ、もう一人じゃない。寂しくないよ。もう大丈夫だから」
この言葉を、夢魔にもかけてあげたらどんなに良かっただろう。
ユウリと夢魔が重なって、ふとそんなことを思ってしまう。
鏡の中で閉じ込められて生きていた夢魔。私が一人ぼっちの寂しさに気付いても、彼は寂しくないと言った。寂しさを閉じ込めて、誰にもすがることをしなかった夢魔。レオナルド警官とスペードのエースが別人のように、ユウリと夢魔も別人だ。
ユウリを救えたとしても、ユウリに一人じゃないと伝えたとしても、夢魔には届かない。
「帰ってきたぞ!」
キリマ家の館から出た私を迎えたのは、ジェームズお兄様の一声だった。敷地の外ではジェームズお兄様とハリーお兄様、ロリーナお姉様の三人が私の帰りを待っていてくれたようだった。
穏やかで上品なロリーナお姉様が小走りでこちらに来たかと思うと、私をぎゅっと抱き締めた。ロリーナお姉様から朝霧のローズの香りがふわりと香る。
「心配したのよ。こんなに埃だらけになってしまって。貴女が無事で良かったわ」
「無事で何よりだが、そうか、服は、無事とは言えないな。お父様がご覧になったら何と仰るか」
明らかに落胆しているハリーお兄様だったけれど、頭を優しく撫でてくれた。ジェームズお兄様は面白そうにカメラをこちらに向けている。
「アリス」
振り返ると、ユウリが立っていた。これから病院へ搬送されるのだろう、救急車に乗る前に来てくれたようだった。付き添いにレオナルド警官が後ろをついている。
通報により突撃した警官が叔父様を捕らえ、ベン警官が牢獄の扉を開けてくれた後、ユウリは部屋に軟禁されていた使用人の子供達と再会した。彼らもユウリと同じように傷だらけで、中にはもっと酷い傷を負った子もいたけれど、幸いなことに全員命には別状がないようだった。
「ありがとう、アリス。あのさ、傷が治ったら」
そこで言葉は止まり、ユウリは無言になってしまう。私は最初にユウリに出会った時を思いだし、笑顔で返す。ユウリが言いたいことはなんとなく分かった。
「うん、約束したもんね。一緒に空の下で遊ぼう。お茶会で美味しいクッキー食べようね」
「うん」
ユウリは嬉しそうに頷くと、レオナルド警官に連れられて救急車で搬送された。少しだけ肩の荷が降りたのか、自然と深く息を吐く。
きっと、ユウリはこれから頑張らなきゃいけないことが沢山ある。リハビリや取り調べが終わっても、新しい生活、当主としての勉強、私が想像出来ないくらい沢山。
そして、鏡が割れて、呪いが解けているだろう夢魔にも。
「一件落着、だな。いやー、俺もお手柄お手柄」
「ジェームズ、お前はこの後じっくり説教の時間だ」
「おいおいハリーお兄様、冗談が下手くそだぜ」
ジェームズお兄様はハリーお兄様に連行され、館へ引きずられていく。ロリーナお姉様は私の肩へ手を回し、いきましょう、と妖精が持つような綺麗な声で囁いた。
その瞬間、迷いの森での幻影が頭を過る。
生い茂る木々が空を隠す、薄暗い森の中で見た白昼夢。
『帰ってきて、アリス』
温かな日差しと木漏れ日の下でそう言ったのは、ロリーナお姉様だ。帰らなきゃ、と思わず声が漏れる。
「えぇ、帰りましょう」