桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「僕は世界の崩壊を知らせる者だよ。そんな僕がいたら人々は嫌悪する。世界の崩壊が来たんじゃないか、ってね。だから正体を隠さなきゃいけない」
「そんな!」
チェシャ猫がパーティーでも顔を出さなかった理由。
チェシャ猫はなにも悪くないのに。チェシャ猫は世界の崩壊を知らせるだけであって、世界を崩壊させているわけじゃない。なのに。
「アリスが悲しむ事ないよ。慣れているから、大丈夫だよ」
慣れている。
その言葉が胸に刺さる。チェシャ猫はずっと人々から嫌悪され、蔑まれてきたのだろうか。
ふと、自分がチェシャ猫だったらと想像した。パーティーで私を祝ってくれた人達が、お祝いの言葉ではなく私を傷つけることを言ってきたら。街を歩いて、出て行けと言われたら。暴力も振るわれるかもしれない。暴言を浴びせられるかもしれない。そんなことを考えると、恐怖で身体が縮こまった。
チェシャ猫は使命感からかもしれないけれど、魔物から私を守ってくれて、自分のことよりも私のことを心配してくれた。自分より他人の心配をする、こんな優しい人が嫌悪や冷酷な感情を向けられてきたのなら、尚更胸が痛い。
「それにね、アリスがいたから大丈夫だよ」
「私が、いたから?」
どういう意味だろう。聞こうにも先程聞いてはならない質問をした気がするから、これ以上問いかけるのは気が引ける。それに、意味深な顔をしたチェシャ猫は秘密だと言うように笑っていて、教えてはくれなそうだ。
「でも、これじゃあ尻尾は隠せないね」
猫耳と同じ黒色の尻尾が、ふりふりと動いているのが見えた。チェシャ猫の冗談に、笑いがこぼれる。
「ふふっ。尻尾は隠せてなかったよ?」
「そっか。じゃあ意味なかったね」
「あ」
「ん? どうしたんだい?」
つられるようにして笑った、初めて見るチェシャ猫の笑顔。その笑顔を見ることが出来て、ほっとしたのと同時、嬉しくなった。
「ううん。私、チェシャ猫の笑顔が見られて嬉しいの」
「アリスがそう言うならもうフードは被らないよ」
「ありがとう」
チェシャ猫の言葉が嬉しい。今まで知らなかったチェシャ猫が知れて、ほんの少しだけチェシャ猫との距離が縮まった気がした。
「あ! チェシャ猫、手、少しだけ血が出ているよ!」
ドジな自分用に持ってきたのが役に立った。ポケットに入れてある包帯を出して傷のあるところに巻く。かすり傷だけど、化膿したりしたら大変だ。
「いたた」
「ご、ごめんね! もう少し我慢してね」
「舐めとけば治るよ。大丈夫。でも、うん。こうしてアリスが手当てしてくれているのなら、別だけどね」
反論を言う間もなく、チェシャ猫が意味深にニコリと笑う。いや、この場合はニヤリ? と表現するのだろうか。こんなに近くにいて、熱が伝わらないか心配になるくらい、体温が上がった気がした。
「ありがとう、もう大丈夫だよ。さ、アリス」
チェシャ猫は立ち上がると、私の目の前に手を差し出す。躊躇いはあるけれど、その手をギュッと握る。
「穴からここに来たってことは、近くにウサギがいるはずだよ。探そう」
「うん」
その後、暫くチェシャ猫と迷いの森の中を歩く。迷いの森と言われるだけあって広い。太陽の位置を確認しようと空を見上げても、生い茂る木々が空を少ししか見せてくれない。深い緑に終わりは見えなくて、疲れが滲んできたその時、囁くような声が木霊した。
『帰っておいで』
『此処だよ、僕らは此処だよ』
また魔物かもしれない。でも、その透き通った木霊は、魔物とは違う、禍々しさのない声をしていた。
『君の帰る場所だよ』
「そんな!」
チェシャ猫がパーティーでも顔を出さなかった理由。
チェシャ猫はなにも悪くないのに。チェシャ猫は世界の崩壊を知らせるだけであって、世界を崩壊させているわけじゃない。なのに。
「アリスが悲しむ事ないよ。慣れているから、大丈夫だよ」
慣れている。
その言葉が胸に刺さる。チェシャ猫はずっと人々から嫌悪され、蔑まれてきたのだろうか。
ふと、自分がチェシャ猫だったらと想像した。パーティーで私を祝ってくれた人達が、お祝いの言葉ではなく私を傷つけることを言ってきたら。街を歩いて、出て行けと言われたら。暴力も振るわれるかもしれない。暴言を浴びせられるかもしれない。そんなことを考えると、恐怖で身体が縮こまった。
チェシャ猫は使命感からかもしれないけれど、魔物から私を守ってくれて、自分のことよりも私のことを心配してくれた。自分より他人の心配をする、こんな優しい人が嫌悪や冷酷な感情を向けられてきたのなら、尚更胸が痛い。
「それにね、アリスがいたから大丈夫だよ」
「私が、いたから?」
どういう意味だろう。聞こうにも先程聞いてはならない質問をした気がするから、これ以上問いかけるのは気が引ける。それに、意味深な顔をしたチェシャ猫は秘密だと言うように笑っていて、教えてはくれなそうだ。
「でも、これじゃあ尻尾は隠せないね」
猫耳と同じ黒色の尻尾が、ふりふりと動いているのが見えた。チェシャ猫の冗談に、笑いがこぼれる。
「ふふっ。尻尾は隠せてなかったよ?」
「そっか。じゃあ意味なかったね」
「あ」
「ん? どうしたんだい?」
つられるようにして笑った、初めて見るチェシャ猫の笑顔。その笑顔を見ることが出来て、ほっとしたのと同時、嬉しくなった。
「ううん。私、チェシャ猫の笑顔が見られて嬉しいの」
「アリスがそう言うならもうフードは被らないよ」
「ありがとう」
チェシャ猫の言葉が嬉しい。今まで知らなかったチェシャ猫が知れて、ほんの少しだけチェシャ猫との距離が縮まった気がした。
「あ! チェシャ猫、手、少しだけ血が出ているよ!」
ドジな自分用に持ってきたのが役に立った。ポケットに入れてある包帯を出して傷のあるところに巻く。かすり傷だけど、化膿したりしたら大変だ。
「いたた」
「ご、ごめんね! もう少し我慢してね」
「舐めとけば治るよ。大丈夫。でも、うん。こうしてアリスが手当てしてくれているのなら、別だけどね」
反論を言う間もなく、チェシャ猫が意味深にニコリと笑う。いや、この場合はニヤリ? と表現するのだろうか。こんなに近くにいて、熱が伝わらないか心配になるくらい、体温が上がった気がした。
「ありがとう、もう大丈夫だよ。さ、アリス」
チェシャ猫は立ち上がると、私の目の前に手を差し出す。躊躇いはあるけれど、その手をギュッと握る。
「穴からここに来たってことは、近くにウサギがいるはずだよ。探そう」
「うん」
その後、暫くチェシャ猫と迷いの森の中を歩く。迷いの森と言われるだけあって広い。太陽の位置を確認しようと空を見上げても、生い茂る木々が空を少ししか見せてくれない。深い緑に終わりは見えなくて、疲れが滲んできたその時、囁くような声が木霊した。
『帰っておいで』
『此処だよ、僕らは此処だよ』
また魔物かもしれない。でも、その透き通った木霊は、魔物とは違う、禍々しさのない声をしていた。
『君の帰る場所だよ』