桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「これは積み重ねた罪への罰。世界を呪い、人々を苦しめた罰。アンタを都合の良い夢に閉じ込めた罰。アーサーを、不幸せにした罰」
「違うよ! 世界を呪ったりなんてエレノアは」
エレノアは世界を呪いたかったわけじゃない。エレノアは平穏を望んだだけ。アーサーとの未来を生きたかっただけ。それを壊した大衆が悪いはずなのに。なのになぜ、最後まで言葉を吐き出すことが出来ないの。
白ウサギと黒ウサギのことを思い出すから?
『アリス』のことを思い出すから?
女王様の言うとおり、彼女は罰を受けるべきなのかもしれない。
ウサギに残酷過ぎる命の選択、虚しいアリスの使命、蔓延した呪いに狂う人々。それらの過程はどうであれ、裁かれるべき罪なのかもしれない。
それでも、それでも。
「許されないわ。許されない。許したくない、私を殺した全てを。赦すものか。赦すものか。赦すものか。世界を壊して、壊して、壊して。希望などない。絶望の世界へと落とすのだ。クククク、ハハハハ!」
磔にされたエレノアの唇から、暗黒の魔女の笑い声がもれる。いつの間にか暗黒の魔女の姿は消えていた。
「逃げなさい、アリス!」
「共に焼け死のうぞ、アリス!」
「元の世界に帰るのよ」
「此処で潰えるのだ」
交互に口調と人格が変わり、目の前にいるエレノアは女王様なのか、暗黒の魔女なのか分からない。
何一つ不確かで、不安定。呪いは渦を巻くようにぐるりと夢をかき回し、エレノアの記憶を混乱させている。
裁くべきか、裁かないべきか。アリスの記憶が叫ぶ。許せないと、悲しいと、切ないと。ウサギを自らの手で消した悲しみや恐怖、ウサギの断末魔が聞こえてくる。大切な人を失った悲しみが流れてくる。
私はエレノアを死なせたくない。
現実ならば、誰かを傷付ければ罪になるし、罰がくだる。不思議の国ならば、女王様が判決をくだしていた。
私は誰かを裁く権利なんてない。
私の使命は、呪いを解くこと。この悪夢を終わらせること。そして、そして。
「私は、逃げないよ。城に帰るって、女王様に約束したよね。私の、私の帰る場所は」
ハリーお兄様、ロリーナお姉様、ジェームズお兄様、イーディス、ローダ、ヴィオレット、フレディック。
家族と過ごした日々が頭を過る。でも、私は決めたの。
「私の帰る場所は、不思議の国。皆がいる、女王様がいる、チェシャ猫がいる場所だよ!」
縄が解けて、エレノアの足元が自由になる。次は手だ。でも、火が肌を焼こうとしてきて我慢出来るような状況じゃない。そう頭に過った時だった。
太陽の眩しさよりもまばゆい光が辺り一体を包んで、目を瞑った。
「桃色のアリス、呪いを解く覚悟、最後まで見せてもらったぞ」
慌ててエレノアを見上げると、ぶつり、と音がして、エレノアの身体が磔から解放される。その身体を紅のマントが包んだ。火を蹴散らすかのようにマント翻すと、火のない安全な場所に着地する。大衆の姿は着地と共に消え、磔台と燃え盛る火だけが村の真ん中にぽつんと残った。
その声、その自信。助けに来たのは不思議の国の王にして、魔女に姿を変えられたハートの王。
「ダイヤの王子!」
「久しいな、アリス。俺様が来たからにはもうお前が何かする必要はない。なんせ、俺は英雄なのだから」
ダイヤの王子の言葉を諌める時計屋さんはいないのか、遮られることがなく自信満々に告げられる。向けられたその笑顔は『ダイヤの王子』ではなく、『アーサー』のものだった。ダイヤの王子の呪いは解け、大人の姿に戻っている。
「アーサー、来てくれたの?」
「違うよ! 世界を呪ったりなんてエレノアは」
エレノアは世界を呪いたかったわけじゃない。エレノアは平穏を望んだだけ。アーサーとの未来を生きたかっただけ。それを壊した大衆が悪いはずなのに。なのになぜ、最後まで言葉を吐き出すことが出来ないの。
白ウサギと黒ウサギのことを思い出すから?
『アリス』のことを思い出すから?
女王様の言うとおり、彼女は罰を受けるべきなのかもしれない。
ウサギに残酷過ぎる命の選択、虚しいアリスの使命、蔓延した呪いに狂う人々。それらの過程はどうであれ、裁かれるべき罪なのかもしれない。
それでも、それでも。
「許されないわ。許されない。許したくない、私を殺した全てを。赦すものか。赦すものか。赦すものか。世界を壊して、壊して、壊して。希望などない。絶望の世界へと落とすのだ。クククク、ハハハハ!」
磔にされたエレノアの唇から、暗黒の魔女の笑い声がもれる。いつの間にか暗黒の魔女の姿は消えていた。
「逃げなさい、アリス!」
「共に焼け死のうぞ、アリス!」
「元の世界に帰るのよ」
「此処で潰えるのだ」
交互に口調と人格が変わり、目の前にいるエレノアは女王様なのか、暗黒の魔女なのか分からない。
何一つ不確かで、不安定。呪いは渦を巻くようにぐるりと夢をかき回し、エレノアの記憶を混乱させている。
裁くべきか、裁かないべきか。アリスの記憶が叫ぶ。許せないと、悲しいと、切ないと。ウサギを自らの手で消した悲しみや恐怖、ウサギの断末魔が聞こえてくる。大切な人を失った悲しみが流れてくる。
私はエレノアを死なせたくない。
現実ならば、誰かを傷付ければ罪になるし、罰がくだる。不思議の国ならば、女王様が判決をくだしていた。
私は誰かを裁く権利なんてない。
私の使命は、呪いを解くこと。この悪夢を終わらせること。そして、そして。
「私は、逃げないよ。城に帰るって、女王様に約束したよね。私の、私の帰る場所は」
ハリーお兄様、ロリーナお姉様、ジェームズお兄様、イーディス、ローダ、ヴィオレット、フレディック。
家族と過ごした日々が頭を過る。でも、私は決めたの。
「私の帰る場所は、不思議の国。皆がいる、女王様がいる、チェシャ猫がいる場所だよ!」
縄が解けて、エレノアの足元が自由になる。次は手だ。でも、火が肌を焼こうとしてきて我慢出来るような状況じゃない。そう頭に過った時だった。
太陽の眩しさよりもまばゆい光が辺り一体を包んで、目を瞑った。
「桃色のアリス、呪いを解く覚悟、最後まで見せてもらったぞ」
慌ててエレノアを見上げると、ぶつり、と音がして、エレノアの身体が磔から解放される。その身体を紅のマントが包んだ。火を蹴散らすかのようにマント翻すと、火のない安全な場所に着地する。大衆の姿は着地と共に消え、磔台と燃え盛る火だけが村の真ん中にぽつんと残った。
その声、その自信。助けに来たのは不思議の国の王にして、魔女に姿を変えられたハートの王。
「ダイヤの王子!」
「久しいな、アリス。俺様が来たからにはもうお前が何かする必要はない。なんせ、俺は英雄なのだから」
ダイヤの王子の言葉を諌める時計屋さんはいないのか、遮られることがなく自信満々に告げられる。向けられたその笑顔は『ダイヤの王子』ではなく、『アーサー』のものだった。ダイヤの王子の呪いは解け、大人の姿に戻っている。
「アーサー、来てくれたの?」