桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「妾はエレノア、エレノアは妾。この憎悪は尽きることはない。世界を恐怖で焼き尽くし、妾を絶望に落としたその種が滅びるまで。妾はこの夢を反芻し続ける」
暗黒の魔女は、私をここで焼くつもりだ。もしかしたら、心中するつもりなのかもしれない。私とここで焼けて、自分は死ぬことが出来ないとしても。
きっとこの夢は、長く長く、何度も何度も繰り返された絶望の果て。呪われ呪った、終わらない渦の中。
この夢が、人々の呪いが、彼女自身を呪いで縛り、彼女は自身を呪い続けているのだというのなら。
「これが真実。これが終末。物語は此処で終わる。アリス、お前の物語も此処で終わり。さぁ、さぁ、さぁ、さぁ! 焼け死にましょう」
彼女はとても甘美な声で、幼子をあやすような優しさで終わりを紡ぐ。
「貴女も呪いに、苦しんでいると言うのなら」
ふ、とエレノアの口漏れた声に、彼女が目を見開く。自分でも驚いたけれど、言葉を続けた。
「私の使命は、『アリスの使命』は終わってない。だから物語は終わらない、終われないよ。私は、『皆』の呪いを解くって決めたんだから!」
諦めない。ここでこの夢物語を終わらせない。私は呪いを解くって決めたんだ。皆の笑顔を取り戻すために。そしてきっと貴女の笑顔を取り戻すために。
エレノアの視界が崩れて、薪の上に放り出された。戻ってきた手足の感覚。炎の熱さに飛び退くと、エレノアの足にぶつかった。振り返ると、エレノアは磔にされたままだ。大衆には私の存在が見えていないのか、気に止める様子はない。けれど、エレノアは私を目視し、突然現れた私に目を見開いている。
「何、何なのよ、貴女、一体どこから、いえ、いえ、覚えている。此処は、アンタは、私は。どうして忘れていたのかしら、私は焼かれた、私は魔女になった、私は女王。でも世界を、多くを不幸にした魔女」
戸惑いを隠せない瞳は、直ぐに苦し気に閉じられる。薪はどんどん燃え上がって、エレノアの足元で勢いを増す。炎の熱さは現実と同じように、私の肌に熱気をおくってくる。
風が炎を煽るように息を吹きかけ、火の粉が舞い上がった。同時に、桃色の髪が視界へと飛び込む。
大丈夫、この桃色が、私の使命を思い出させてくれる。
「妾の呪いを解くというのか。クククク、ハハハハ! 妾は呪いを受け、望まれた魔女となった。故に妾自身が呪い。どう救う? 妾は魔女ぞ、呪いぞ!」
暗黒の魔女はもう、笑っていなかった。
「こうするの!」
エレノアの縄を掴む。すると、じわじわと燃えていた炎が一気に私とエレノアを囲んだ。後戻りはもう出来ない。
この夢の中で、エレノアを助けることが出来れば、例えばこの場限りで、未来は取り戻せないとしても。エレノアは呪いを呑み込まずに済む。この夢の先は、きっと悪い夢になんてならない。これは彼女の夢。暗黒の魔女が見せる原初の呪い。これが夢だと分かったならば、それが悲しくたって希望はある。きっと、きっと。
「今、助けるから!」
縄の交差点に指を入れて、力を込める。縄は固く縛られていて、素手で解けないように思えた。私にチェシャ猫のような爪があれば良かったのに。
熱さに悶えると、エプロンドレスに火が燃え移っていて、思わずとび跳ねた。怖くなって、身体中から汗が吹き出てくる。
「逃げなさい、アリス」
頭上から降ってきた声に、私は喉が潰れそうになる。
「女王様!」
エレノアは苦痛に表情を固めながらも、私を見つめる。でも、その瞳には私を映してはいなかった。過去を映しているような、遠い目。
暗黒の魔女は、私をここで焼くつもりだ。もしかしたら、心中するつもりなのかもしれない。私とここで焼けて、自分は死ぬことが出来ないとしても。
きっとこの夢は、長く長く、何度も何度も繰り返された絶望の果て。呪われ呪った、終わらない渦の中。
この夢が、人々の呪いが、彼女自身を呪いで縛り、彼女は自身を呪い続けているのだというのなら。
「これが真実。これが終末。物語は此処で終わる。アリス、お前の物語も此処で終わり。さぁ、さぁ、さぁ、さぁ! 焼け死にましょう」
彼女はとても甘美な声で、幼子をあやすような優しさで終わりを紡ぐ。
「貴女も呪いに、苦しんでいると言うのなら」
ふ、とエレノアの口漏れた声に、彼女が目を見開く。自分でも驚いたけれど、言葉を続けた。
「私の使命は、『アリスの使命』は終わってない。だから物語は終わらない、終われないよ。私は、『皆』の呪いを解くって決めたんだから!」
諦めない。ここでこの夢物語を終わらせない。私は呪いを解くって決めたんだ。皆の笑顔を取り戻すために。そしてきっと貴女の笑顔を取り戻すために。
エレノアの視界が崩れて、薪の上に放り出された。戻ってきた手足の感覚。炎の熱さに飛び退くと、エレノアの足にぶつかった。振り返ると、エレノアは磔にされたままだ。大衆には私の存在が見えていないのか、気に止める様子はない。けれど、エレノアは私を目視し、突然現れた私に目を見開いている。
「何、何なのよ、貴女、一体どこから、いえ、いえ、覚えている。此処は、アンタは、私は。どうして忘れていたのかしら、私は焼かれた、私は魔女になった、私は女王。でも世界を、多くを不幸にした魔女」
戸惑いを隠せない瞳は、直ぐに苦し気に閉じられる。薪はどんどん燃え上がって、エレノアの足元で勢いを増す。炎の熱さは現実と同じように、私の肌に熱気をおくってくる。
風が炎を煽るように息を吹きかけ、火の粉が舞い上がった。同時に、桃色の髪が視界へと飛び込む。
大丈夫、この桃色が、私の使命を思い出させてくれる。
「妾の呪いを解くというのか。クククク、ハハハハ! 妾は呪いを受け、望まれた魔女となった。故に妾自身が呪い。どう救う? 妾は魔女ぞ、呪いぞ!」
暗黒の魔女はもう、笑っていなかった。
「こうするの!」
エレノアの縄を掴む。すると、じわじわと燃えていた炎が一気に私とエレノアを囲んだ。後戻りはもう出来ない。
この夢の中で、エレノアを助けることが出来れば、例えばこの場限りで、未来は取り戻せないとしても。エレノアは呪いを呑み込まずに済む。この夢の先は、きっと悪い夢になんてならない。これは彼女の夢。暗黒の魔女が見せる原初の呪い。これが夢だと分かったならば、それが悲しくたって希望はある。きっと、きっと。
「今、助けるから!」
縄の交差点に指を入れて、力を込める。縄は固く縛られていて、素手で解けないように思えた。私にチェシャ猫のような爪があれば良かったのに。
熱さに悶えると、エプロンドレスに火が燃え移っていて、思わずとび跳ねた。怖くなって、身体中から汗が吹き出てくる。
「逃げなさい、アリス」
頭上から降ってきた声に、私は喉が潰れそうになる。
「女王様!」
エレノアは苦痛に表情を固めながらも、私を見つめる。でも、その瞳には私を映してはいなかった。過去を映しているような、遠い目。