桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~

 細い指が髪を撫でる優しい感触に、ふと先程の夢を思い出す。夢の中ではお姉さんと二人、今日みたいなお日様の下でトランプをしていた。色鮮やかに、今でもトランプの色と木々の陰りが記憶に残っている。この花畑に溢れる蜜の香りと一緒に、太陽に温められた新緑の香りが、鼻腔をくすぐっている気がするくらいに。
「私、お姉さんいないのにな」
「何? 夢の話?」
「うん。夢でね、お姉さんとトランプをしていたんだけど」
「アリスにお姉さんはいないわよね。あら、でもお姉さんがいないなんて言ったら処刑されてしまうかしら」
「ふふふ、怖いね」
 夢で存在した、知らないお姉さん。私には血の繋がったお姉さんはいない。そしてお母さんとお父さんも。赤ん坊の頃、私はこの不思議の国を統治する城門の前に置き去りにされていたらしい。
 置き紙に残されていたアリスという名前だけを頼りに、女王様が直々に探してくれたみたいだけれど、結局わからずじまいだった。
 私は城で育てられ、こうして最高の親友と楽しく過ごしている。そして、最高のお姉様である、女王様とも。
「アリス殿―!」
「わ! 見つかっちゃった!」 
「女王陛下がお怒りです! 速急に城へ戻るように、と!」
 赤い隊服を纏った兵が駆け寄る。見慣れた隊服に身を包む彼は、お城のトランプ兵だ。
 もう少し花畑にいたかったけど、戻らなくちゃ。
「リズー……」
 助けを求めてリズを見ると、リズは困ったように笑った。
「アリス、ほら、早く行かないと本当に怒られちゃうわよ?」
「う。それは嫌、だけど。今日の遊ぶ約束は?」
「また今度よ。それに私、この後は予定があるから長くは遊べないって言ったでしょう? 丁度良かったじゃない」
「うーん、分かった! じゃあまた明日会おうね!」
「ふふ。明日、ね」
「?」
 リズは意味深にクスリと笑うと、またね、と言って帰ってしまった。
「な、何か可笑しい事言ったかな?」
 ふと浮かんだ疑問は消え、丘から遠ざかる水色のワンピースを尻目に、これからのことを考えて肩が沈む。
「さぁ、アリス殿。早く城にお戻りを。課題が山積みです」
「ええっ! そ、そんなぁ!」
 

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