桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
帽子屋はそう言ってくれたけど、言い様のない不安がじわじわと、ゆっくり浸透していくように胸に広がっていく。
「何も怖いことはないさ。きっと、これからアイツも帰ってくる」
「あいつ?」
「アリスがいるならアイツもきっと帰ってくる。帰って来るんだ」
帽子屋の表情は見えない。けれど音色から、肌から伝わってくる。帽子屋の様子が、おかしいことに、やっと気付いた。いや、気付いてしまった。
「帽子屋! どうしたの?」
帽子屋は一室の扉を開けると、室内へと入っていく。腕を引っ張られている私も、当然帽子屋と共に中に入ることになった。部屋は暗くても見覚えがあって、昼に紅茶を飲んだ部屋だ。紅茶の香りが鼻に届き、電気がついた。
反射的に後ろを振り向くと、部屋の扉がしまっている。扉には薔薇の蔦が巻き付き、見たことのないスピードで増殖を始めていた。
「アリス。席へ」
帽子屋を見ると、いつの間にか私の腕を離し、テーブルの近くにいる。席は、テーブルがあるだけで見当たらない。何から何までもちぐはぐだ。
「帽子屋、一体どういう事?」
部屋の中にはチェシャ猫も眠りネズミもいない。
「どうして二人はいないの? どうして嘘をついたの?」
淹れられた紅茶。椅子のないお茶会。帽子屋の雰囲気。嘘。全てがおかしい。
帽子屋は何をしようというの?
部屋に漂う今までに感じた事のない異質な雰囲気に、今更になって気づく。この嫌な感じは、帽子屋から漂っている。そこに、出会った時にいた理論的な帽子屋はいない。
「クク、ハハハハハ!」
帽子屋の高笑いと共に響く鐘の音。鐘の音を鳴らしているアンティーク時計を見ると、三時を指している。
「さぁ、アリス。お茶会の時間だ。終わらないお茶会を始めよう!」
「きゃ!」
足元に何か触れたのを感じ、下を見ると扉を覆った薔薇の蔦が私の足に巻き付いてきていた。蔦につく蕾が、青い薔薇を咲かせながら――
「やだ!」
何とか巻き付いてきた薔薇の蔦から逃れ、蔦のない方向へと走る。
捕まったら、逃げられない!
「紅茶の香りに誘われて、アイツはきっと帰ってくる、帰って来るんだ。アイツも、黒ウサギも」
走りながら、言葉を発する帽子屋を横目で見る。
「あぁ、黒ウサギを消そうとしているアリス。させないさ、俺の大事な家族。黒ウサギを消してしまうと言うのなら、殺してしまおうか。あぁ、アリスを利用させないと言ったチェシャ猫が先か。此処でアリスを閉じ込めるという手もある。それなら俺も納得出来る」
帽子屋の視線が逃げようとする私を捉え、唇は三日月を描く。
「逃がさない――」
その言葉と同時に、薔薇の蔦がものすごい勢いで体に巻き付く。薔薇に棘がないのか、チクリとした痛みはなかった。
「アリス。俺には君が必要なんだ」
前方を見ると帽子屋がすぐ近くまで来ている。後ろは壁。腕や足には蔦が巻き付いていて逃げられない。
「帽子屋! やめて!」
「何故だか分かるか?」
私の声には反応を示さず、どんどんと帽子屋は近づいてくる。そしてついに私の前まで来ると、帽子屋の手が私の頬に触れた。
「アリスを愛しているからだ――」
口元に笑みを浮かべながら帽子屋は優しく囁く。笑っているはずなのに、目は笑ってない。それどころか、瞳に宿っているのは紛れもない、狂気。
黒ウサギは帽子屋の家族だと言った。その家族が消されるなら、私を殺すと。でも、今は私を好きだと言っている。
この矛盾はなに?
「変だよ! 帽子屋! どうしちゃったの? 昼間、美味しい紅茶を淹れてくれた帽子屋はどこに行ったの?」
「何も怖いことはないさ。きっと、これからアイツも帰ってくる」
「あいつ?」
「アリスがいるならアイツもきっと帰ってくる。帰って来るんだ」
帽子屋の表情は見えない。けれど音色から、肌から伝わってくる。帽子屋の様子が、おかしいことに、やっと気付いた。いや、気付いてしまった。
「帽子屋! どうしたの?」
帽子屋は一室の扉を開けると、室内へと入っていく。腕を引っ張られている私も、当然帽子屋と共に中に入ることになった。部屋は暗くても見覚えがあって、昼に紅茶を飲んだ部屋だ。紅茶の香りが鼻に届き、電気がついた。
反射的に後ろを振り向くと、部屋の扉がしまっている。扉には薔薇の蔦が巻き付き、見たことのないスピードで増殖を始めていた。
「アリス。席へ」
帽子屋を見ると、いつの間にか私の腕を離し、テーブルの近くにいる。席は、テーブルがあるだけで見当たらない。何から何までもちぐはぐだ。
「帽子屋、一体どういう事?」
部屋の中にはチェシャ猫も眠りネズミもいない。
「どうして二人はいないの? どうして嘘をついたの?」
淹れられた紅茶。椅子のないお茶会。帽子屋の雰囲気。嘘。全てがおかしい。
帽子屋は何をしようというの?
部屋に漂う今までに感じた事のない異質な雰囲気に、今更になって気づく。この嫌な感じは、帽子屋から漂っている。そこに、出会った時にいた理論的な帽子屋はいない。
「クク、ハハハハハ!」
帽子屋の高笑いと共に響く鐘の音。鐘の音を鳴らしているアンティーク時計を見ると、三時を指している。
「さぁ、アリス。お茶会の時間だ。終わらないお茶会を始めよう!」
「きゃ!」
足元に何か触れたのを感じ、下を見ると扉を覆った薔薇の蔦が私の足に巻き付いてきていた。蔦につく蕾が、青い薔薇を咲かせながら――
「やだ!」
何とか巻き付いてきた薔薇の蔦から逃れ、蔦のない方向へと走る。
捕まったら、逃げられない!
「紅茶の香りに誘われて、アイツはきっと帰ってくる、帰って来るんだ。アイツも、黒ウサギも」
走りながら、言葉を発する帽子屋を横目で見る。
「あぁ、黒ウサギを消そうとしているアリス。させないさ、俺の大事な家族。黒ウサギを消してしまうと言うのなら、殺してしまおうか。あぁ、アリスを利用させないと言ったチェシャ猫が先か。此処でアリスを閉じ込めるという手もある。それなら俺も納得出来る」
帽子屋の視線が逃げようとする私を捉え、唇は三日月を描く。
「逃がさない――」
その言葉と同時に、薔薇の蔦がものすごい勢いで体に巻き付く。薔薇に棘がないのか、チクリとした痛みはなかった。
「アリス。俺には君が必要なんだ」
前方を見ると帽子屋がすぐ近くまで来ている。後ろは壁。腕や足には蔦が巻き付いていて逃げられない。
「帽子屋! やめて!」
「何故だか分かるか?」
私の声には反応を示さず、どんどんと帽子屋は近づいてくる。そしてついに私の前まで来ると、帽子屋の手が私の頬に触れた。
「アリスを愛しているからだ――」
口元に笑みを浮かべながら帽子屋は優しく囁く。笑っているはずなのに、目は笑ってない。それどころか、瞳に宿っているのは紛れもない、狂気。
黒ウサギは帽子屋の家族だと言った。その家族が消されるなら、私を殺すと。でも、今は私を好きだと言っている。
この矛盾はなに?
「変だよ! 帽子屋! どうしちゃったの? 昼間、美味しい紅茶を淹れてくれた帽子屋はどこに行ったの?」