桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
静寂を切った言葉に、情けないと自分でも思う。呪いを解くなんて言い出したくせに、一人じゃなにも出来ない。自分一人守れない。守ってもらってばかりで、威勢が良いのは口先だけ。手を引いてくれるチェシャ猫がいなきゃ、歩くことさえ辛い。今だって暗黒の魔女も倒せないで、逃げてきたのだ。
「お願い、力を貸して。白ウサギを信じて鏡を一緒に探してほしいの」
俯きかける顔を上げ、黒ウサギの漆黒の髪を見つめる。
「お前はっ!」
勢い良く振り向いた黒ウサギは、私の手首を掴んだ手を目の前へと高く持ち上げる。 握りつぶされるくらいきつく握りしめられて、痛みで思わず顔が歪んだ。
痛いと訴えたかった。けれどその言葉も、彼の名前も、私は続けることが出来ない。黒ウサギの顔が、私以上につらそうに歪んでいたから。私を見下ろす黒ウサギの表情に、今度は情けない顔になっていくのが自分でも分かる。
振り向いてもらえたのに、どうしてこんな辛いの?
「お前、守りたいって言ったな。皆を、世界を呪いから救いたいって」
手の力は少しも弱まることなく握られる。意識は痛みへ集中してもおかしくないのに。黒ウサギの発する言葉に意識は研ぎ澄まされる。
「そんな小さな身体で、こんな小さな手で、本当にお前は全てを守れるのか!」
黒ウサギの叫んだ言葉が、胸に突き刺さる。今さっき感じた不安を、黒ウサギは気付いて、もしくは感じていた。
「こんな小さな身体で、お前に何が出来るって言うんだ」
私を掴んでいた黒ウサギの手が解かれ、そのまま力なく下がっていく。
私の身体も同調するかのように力が抜け、草が生い茂る地面へと座り込む。
鏡の在りかを知れなかっただけでも諦めそうになったのに、狂気に呑まれ、魔女にさえ勝てなかった。呪いの解く方法さえ闇の中。決意をしたって私は何一つ守れない。
諦めたくなる。黒ウサギだって、生きるのを諦めてしまいたいと思うほどに思い悩んでいる。それを彼の指の隙間から零れ落ちる涙から、感じ取れた。
それでも、黒ウサギが生きていたのは。
「黒ウサギは、黒ウサギが生きているのは、消える運命を受け入れたからじゃない。諦めてないからだよね。希望を、生きる事を」
世界の為に、消える為に生まれてきた黒ウサギ。それがどんなに辛い事実なのか、考えるだけで胸が軋む。いずれ消える身。訪れることのない未来に、どれ程生きることに葛藤をしてきたのだろう。
生きていても意味なんてない。そんな風に考えたかもしれない。そしてそこには、計り知れない絶望が黒ウサギにはあったはず。けれどどんな絶望にも堪えて、貴方は生きていてくれた。それが何よりも嬉しくて、離れた彼の手を包む。
「黒ウサギ、生きていてくれてありがとう」
「お前、どんな考えしたらそんな結論になるんだ」
驚き、目を見開いていた黒ウサギが、ほんの少しだけ微笑む。微笑んだ黒ウサギの表情は、少しだけ困ったような。それでも、どこか嬉しそうな気がした。
「馬鹿だな。お前は本当に馬鹿だ」
肩にのし掛かる重み。真っ黒な視界。首元にかかる吐息。
予想外の黒ウサギの行動に体が硬直する。肩に顔を埋める黒ウサギに何か言おうとするけれど、驚きのあまり言葉が出ない。
「あの、黒ウサギ?」
崖に落ちる時、抱き締められたのを思い出す。あの時も私達の距離は零。でもあの時よりももっと近くに黒ウサギを感じる。
そう、まるで離れていた心が交差しているような。
ふっ、と笑った気配があったかと思うと、黒ウサギはなにやら言葉を呟く。
「調子が狂う。時計、止めないのか?」
「お願い、力を貸して。白ウサギを信じて鏡を一緒に探してほしいの」
俯きかける顔を上げ、黒ウサギの漆黒の髪を見つめる。
「お前はっ!」
勢い良く振り向いた黒ウサギは、私の手首を掴んだ手を目の前へと高く持ち上げる。 握りつぶされるくらいきつく握りしめられて、痛みで思わず顔が歪んだ。
痛いと訴えたかった。けれどその言葉も、彼の名前も、私は続けることが出来ない。黒ウサギの顔が、私以上につらそうに歪んでいたから。私を見下ろす黒ウサギの表情に、今度は情けない顔になっていくのが自分でも分かる。
振り向いてもらえたのに、どうしてこんな辛いの?
「お前、守りたいって言ったな。皆を、世界を呪いから救いたいって」
手の力は少しも弱まることなく握られる。意識は痛みへ集中してもおかしくないのに。黒ウサギの発する言葉に意識は研ぎ澄まされる。
「そんな小さな身体で、こんな小さな手で、本当にお前は全てを守れるのか!」
黒ウサギの叫んだ言葉が、胸に突き刺さる。今さっき感じた不安を、黒ウサギは気付いて、もしくは感じていた。
「こんな小さな身体で、お前に何が出来るって言うんだ」
私を掴んでいた黒ウサギの手が解かれ、そのまま力なく下がっていく。
私の身体も同調するかのように力が抜け、草が生い茂る地面へと座り込む。
鏡の在りかを知れなかっただけでも諦めそうになったのに、狂気に呑まれ、魔女にさえ勝てなかった。呪いの解く方法さえ闇の中。決意をしたって私は何一つ守れない。
諦めたくなる。黒ウサギだって、生きるのを諦めてしまいたいと思うほどに思い悩んでいる。それを彼の指の隙間から零れ落ちる涙から、感じ取れた。
それでも、黒ウサギが生きていたのは。
「黒ウサギは、黒ウサギが生きているのは、消える運命を受け入れたからじゃない。諦めてないからだよね。希望を、生きる事を」
世界の為に、消える為に生まれてきた黒ウサギ。それがどんなに辛い事実なのか、考えるだけで胸が軋む。いずれ消える身。訪れることのない未来に、どれ程生きることに葛藤をしてきたのだろう。
生きていても意味なんてない。そんな風に考えたかもしれない。そしてそこには、計り知れない絶望が黒ウサギにはあったはず。けれどどんな絶望にも堪えて、貴方は生きていてくれた。それが何よりも嬉しくて、離れた彼の手を包む。
「黒ウサギ、生きていてくれてありがとう」
「お前、どんな考えしたらそんな結論になるんだ」
驚き、目を見開いていた黒ウサギが、ほんの少しだけ微笑む。微笑んだ黒ウサギの表情は、少しだけ困ったような。それでも、どこか嬉しそうな気がした。
「馬鹿だな。お前は本当に馬鹿だ」
肩にのし掛かる重み。真っ黒な視界。首元にかかる吐息。
予想外の黒ウサギの行動に体が硬直する。肩に顔を埋める黒ウサギに何か言おうとするけれど、驚きのあまり言葉が出ない。
「あの、黒ウサギ?」
崖に落ちる時、抱き締められたのを思い出す。あの時も私達の距離は零。でもあの時よりももっと近くに黒ウサギを感じる。
そう、まるで離れていた心が交差しているような。
ふっ、と笑った気配があったかと思うと、黒ウサギはなにやら言葉を呟く。
「調子が狂う。時計、止めないのか?」