敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「……そうか。貴方は、もう大丈夫なのか?」

 視線をクリックに移す。
 クリックが立ち上がろうとすると、エルフナルドが低く制した。

「そのままでいい。痛むだろう」
「……申し訳ありません。手当てをしていただいたので、ご心配には及びません」
「陛下、この方の傷は問題ありません。王妃様の応急処置のおかげで、出血も最小限でした。内臓の損傷もなく、縫合のみで済みました」

 医師の言葉に、ユリアは思わず視線を逸らした。

「……どのような者に襲われた?」
「門番だと聞きましたが、すり替わっていたようです」

 ユリアとクリックの話を聞き終えると、エルフナルドは深く息を吐いた。

「……調べてはいるが、まだ掴めていない。人数を増やして、徹底的に洗う」

 そう言って、エルフナルドは席を立った。

 ユリアはエルフナルドと共に馬に乗り、王宮へ戻っていた。
 彼の背中で、ユリアの脳裏には、あの男の言葉が何度も蘇っていた。

 ――「早く治せ」と、確かに言っていた……。

 逃げることもせず、治療の様子を見ていたこと。
 今回の標的が、自分ではなくクリックだったこと。

 ――やはり、アリシアの時も……。

 ユリアは目を閉じ、エルフナルドの服を掴む手に力を込めた。

 ――私に、力があるかどうかを確かめている……。

 その考えに、胸が締め付けられる。

 ――でも、どうして……。私はもう、力を失ったのに……。

 それでもなお疑う者が、この国に、あるいはその近くにいる。

 ――これ以上、私の側にいる人が傷つくなんて……。

 エルフナルドは、ユリアの手に力が込められていることに気付いていた。
 だが、あえて何も言わず、ただ前を見据えて馬を走らせた。

 ――必ず、犯人を突き止める。

 彼はそう、静かに誓っていた。
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