敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

43 噂

 事件の犯人を捕まえるべく、エルフナルドはあらゆる手を尽くしてきた。
 だが、約一ヶ月が経った今も、決定的な情報は得られないままでいた。
 そんな折、いつものように執務室で書類に目を通していると、扉をノックする音が響き、カリルが入室してきた。

「お忙しいところ、失礼いたします。ユリア様のことで、一つ情報が入ってきたようなのですが……」

 その言葉に、エルフナルドは書類から目を離し、カリルへ視線を向けて小さく息を吐いた。

「事件の件ではないのか……。あいつのこととは、どんな内容だ?」

 問いかけると、カリルは一瞬、言葉を探すように視線を彷徨わせ、少し言いにくそうな表情を浮かべて口を開いた。

「それが……ユリア様がユーハイム国にいらした頃、戦争に参加されていたという話が出てきまして……」

 エルフナルドは、思わず眉をひそめた。

「どういう意味だ? あいつは王女だろう。まさか戦闘要員だったわけではあるまい」
「……詳しいことは、まだ分かっておりません。私も最初は誤情報ではないかと思ったのですが、戦場でユリア様を見たことがある、という者がいるそうなのです……」

 歯切れの悪いカリルの言葉に、エルフナルドの表情はさらに険しくなる。

「誰だ、その者は」
「隣国の負傷兵だそうで……」

 そこまで言って、カリルは一瞬言葉を詰まらせた。

「怪しいな。その兵は、いつ頃見たと言っている?」
「はっきりとは分かりませんが、かなり前の話のようです。ただ、その負傷兵は戦で重傷を負い、帰還後は長年療養が続いているらしく……詳しい証言を聞くのは難しい状況だそうです」

 エルフナルドは目を閉じ、腕を組んで考え込んだ。
 
 ルトア国へ向かう際、手助けも要らず軽々と馬に乗ったこと。
 洞窟で迷いなく火を起こしたこと。
 不自然とまでは言えないが、引っかかる点はいくつも思い浮かぶ。

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